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「高3の堂安律と比べて足りない」
中村敬斗に響いた宮本監督の言葉。
posted2018/12/01 08:00
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph by
J.LEAGUE
パナソニックスタジアム吹田で行われた11月24日のV・ファーレン長崎戦。2万7806人の観客が集った場内には、残留争いを繰り広げていた当時の緊張感はなく、宮本恒靖監督とともにJ1残留というミッションを果たした戦士たちを温かく迎える雰囲気が漂っていた。
今季のホーム最終戦で、ガンバ大阪サポーターが注目していたのは連勝記録の更新の有無。クラブ記録に並ぶ9連勝への期待感は高まる一方だった。
J2降格という重圧から解放された選手たちの中で、18歳のルーキーは秘めた覚悟とともにピッチに立っていた。
「正直、今日の調子が良くなくて、前半で交代させられていたら今後の人生に響いているぐらいの試合でした」
言葉の主は飛び級で今季、プロ契約をかわした中村敬斗である。
「ガンバの飛び級」という系譜。
アカデミーが生んだ数々の逸材を飛び級でトップに昇格させて来たガンバ大阪ではあるが、アカデミー出身者以外では初めての快挙を果たしたのが中村だった。
273日前、やはりパナソニックスタジアム吹田で行われた名古屋との開幕戦では、当時の指揮官、レヴィー ・クルピ前監督にそのシュートセンスを認められ、69分に早くもプロデビュー。持ち味であるパンチの効いたシュートで場内を沸かせた中村だったが、ここまでのハイライトといえばルヴァンカップのグループステージ浦和戦で叩き込んだドリブルシュートのみ。
もちろん、高校3年生であることを思えば、決して悪くない足取りではあるのだが「ガンバの飛び級」は言わば、成功への約束手形のようなものである。
稲本潤一や家長昭博、宇佐美貴史、そして日本代表でも売り出し中の堂安律……。偉大な才能たちと比べると中村の1年目は、必ずしも期待に応えるものではなかった。