沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
ステルヴィオが秋のマイル王者戴冠。
電光石火の手綱さばきに脱帽。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2018/11/19 11:20
ステルヴィオの力を引き出したウィリアム・ビュイックはまだ30歳。末恐ろしい騎手である。
今年GI9勝目の世界的名手。
1着から3着まで馬番の順にゴールしたことが示しているように、内を上手く立ち回った馬たちが上位を占めた。なお、1、2、3番の順で決着したのはGIでは初めてだという。
勝利騎手のビュイックは、4年ぶりに短期免許で来日し、これがマイルチャンピオンシップでは3度目の騎乗。京都外回りコースの特性を見事に生かし、初コンビのパートナーにビッグタイトルをプレゼントした。
それまでステルヴィオは後方待機策をとることが多かったが、「スタートがよかったので、そのまま抑えずに行きました」と好位の4、5番手につけた。前半3ハロン35秒0の緩い流れに対応したうえで、古馬より1キロ軽い56キロの斤量も生かしたわけだ(斤量が軽い馬は「行った者勝ち」とよく言われる)。
ラスト200m地点で、前のアルアインの内と外どちらのスペースを狙うか、コンマ数秒迷っていたようにも見えたが、内と決めてからの手綱の操作と鞭の持ち替えのスピードは、文字どおり電光石火の速さだった。これが今年、7カ国で9つ目のGI勝利というのも頷ける、素晴らしい騎乗だった。
ノルウェーに生まれ、イギリスでデビューした30歳。現在はゴドルフィンの主戦で、前記のGI9勝には英国ダービーも含まれ、8頭の異なる馬で9勝している。4年前に来日したときより遥かに腕を上げており、今は押しも押されもせぬ世界の名手だ。今回の滞在期間は約1カ月だが、有力馬の騎乗依頼が殺到するのではないか。
こんなところにスーパーマイラーが。
馬場の真ん中から力強く伸びたカツジが差のない4着。4コーナーで不利を受けたモズアスコットのさらに外を回ったミッキーグローリーが5着。1984年のグレード制導入以降、全きょうだいとして初めてGIに出走したこれら2頭(父ディープインパクト、母メリッサ)が揃って上がり最速タイの33秒4で追い込み、掲示板に載ったことも称賛に値する。
ステルヴィオは、通算成績を9戦4勝、2着3回、着外2回とした。1、2着はすべて1600mと1800m、着外は皐月賞の4着とダービーの8着だ。2歳のときは、4戦2勝、2着2回で、「2歳王者ダノンプレミアムにしか負けていない」ということで評価されていたが、今こうして成績を俯瞰すると、こんなところにスーパーマイラーが隠れていたのか、という感じがする。
ビュイックによって引き出された末脚の爆発力は、マイル界の絶対王者として君臨した父ロードカナロアを彷彿させるものだった。
また1頭、楽しみなスターが現れた。