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昨季逃した世界一になるために。
セットアッパー前田健太の心意気。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2018/10/12 17:00
セットアッパーを任される前田健太。ブルワーズとの優勝決定シリーズは日本時間13日から始まる。
カーショウが歩み寄りビールを。
歓喜に沸く、喜びのシャンペンファイト。「ブルペンの切り札」ながら、地区シリーズでは1試合の登板のみに終わった。それでもナインは「ケンタ! ケンタ!」と叫び、前田にシャンペンをあびせた。
通算280本塁打のマット・ケンプが、正捕手のヤスマニ・グランダルが、昨季の新人王コーディー・ベリンジャーが次々と祝福する。その時だった。ビールを片手に近寄って来たのは“孤高”のエース、クレイトン・カーショウだった。
この3年間、シャンペンファイトでカーショウが前田の元へ自ら歩み寄り祝福する姿は見たことがなかった。カーショウ自身が派手にシャンペンファイトで喜んだ姿も印象にない。その寡黙なエースが前田へ歩み寄りビールをかけた。
「スコシ、スコシ」
頭からビールを2度。言葉通り、少しずつかけられた前田は深々と頭を下げ「はい」と最敬礼。いたいけなその姿がかわいかった。
チームにとって、前田がいかに重要な位置にいるのか。それが良くわかる光景と感じた。34歳のベテラン外野手がシャンペンを思い切り振り回し、女房役は前田の顔をめがけて下から攻め、若きスラッガーは頭の上から豪快に降り注いだ。そして、大エースがそっと労を労う。
前田が示したチームへの忠誠心にナインは感謝の意を表し、受け入れた仕事を全うする姿に心を打たれた。それがこのシャンペンファイトだと感じた。
配置転換を受け入れた心意気。
言うまでもなく、前田健太は先発投手だ。今季も先発投手として前半戦で6勝を挙げた。先発での奪三振率10.6が示すようにその仕事は安定感があった。それが、だ。
後半戦に入るとブルペン陣が不安定となり、絶対的守護神ジャンセンが不整脈で故障者リスト入りした。チームの危機に首脳陣は昨季のポストシーズンで2勝2ホールド、防御率0.84と救援での適性も示した前田に配置転換を願い出た。
先発投手として、十分な仕事を果たしていたにも関わらず「チーム事情だ。救援に回ってくれ」と、一方的に命令は下されたのである。