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大迫傑が出した日本記録は予兆だ。
金哲彦が予言するマラソンの新時代。
posted2018/10/13 11:30
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph by
AFLO
シカゴマラソンのテレビ中継があったのは出雲駅伝の前日。私は解説業務で出雲市を訪れていた。
三大学生駅伝第1戦目の動向も気になっていたが、シカゴマラソンの様子も心配で仕方なかった。
見慣れているはずのマラソン中継。しかし、この日はいつになく浮き足立った。特別な思いをもつ3人が一緒に生中継を観ていたからだ。
テレビの前に陣取っていたのは、瀬古利彦氏(横浜DeNAランニングクラブ総監督)、渡辺康幸氏(住友電工陸上競技部監督)、私、金哲彦の3人。
瀬古氏はマラソン界のレジェンドで2年後の東京オリンピックのマラソン強化戦略プロジェクトリーダーをつとめる。
また、渡辺氏は早大時代の大迫傑選手を直接指導した恩師である。そして、3人はともに早大競走部のOBで、大迫傑選手(ナイキオレゴンプロジェクト)はかわいい後輩なのである。
大迫が2時間05分50秒でフィニッシュした直後、日本記録達成を祝って、おとなげなく万歳三唱を何度もやった。日本陸上界の常識を覆し続ける頼もしい後輩への熱い思いがこみ上げてきたのだ。
設楽の日本新に燃えたはず。
大迫傑の日本記録は、数々の修羅場をくぐりマラソンを知り尽くしてきた私たちにとっても心を揺さぶられた偉業である。
2月の東京マラソンで設楽悠太(Honda)が2時間06分11秒を達成した。16年ぶりの日本記録だ。そして1億円という巨額な褒賞金を手にした。長距離選手にとってはこれまであり得なかった金額だ。
決してお金だけが目的で走っているわけではない。だが、全てを犠牲にして苦しいトレーニングに耐えて挑んだ結果の評価が高くなることは、モチベーション維持の理由として申し分ない。
設楽の快走に「先にやられた」という気持ちが大迫には少なからずあっただろう。と同時に、「自分はもっと上を目指す」と次の瞬間から考えていたと思う。