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「フィギュアスケートは総合芸術」
氷上の哲学者・町田樹、最後の演技。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2018/10/10 11:00
フィギュアスケートを含む「アーティスティックスポーツ」を研究している町田樹。これからは大学教授を目指す。
「フィギュアスケートは総合芸術」
2016年には、誰もがそのメロディーを知っているであろう松田聖子の大ヒット曲『あなたに逢いたくて』で、曲に合わせて滑るというより、歌詞と曲に応えるかのような独創的な演技を見せた。
2017年は3部構成の『ドンキホーテ』を披露し、あっと言わせた。
町田が最後の日に演じたのは、この日だけのプログラム。
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ジャパンオープンではシューベルトの「楽興の時 第3番」、エルガーの「愛のあいさつ」による2部構成の『そこに音楽がある限り』。
カーニバルオンアイスでは『人間の条件』を、10分ほどもあっただろうか……それを見事に演じきった。
「フィギュアスケートは総合芸術」という信念を持つ町田は、その信念を確かめ、形として表すために氷上の内外で研鑽を重ねてきた。その中から生み出してきたプログラムは、そのすべてが戦い続けてきた証であった。
次は何を見せてくれるのか、常にそんな期待を抱かせ続けた。
だが、氷上を去ることを決めた。
両立できなければ引退を。
研究者とスケーター、2つの活動を続けながら、「本業は大学院生」と考えていた。そして心に決めていることがあった。
「学業とプロスケーターとしての活動が両立できないのであれば、いつでもプロスケーターをやめる覚悟で毎年、毎作品を演じてきたつもりです」
今春からは慶応義塾大学と法政大学で非常勤講師として教壇に立つことになり、さらに多忙をきわめることとなった。なので「キャリアを一本に絞るべきとき」と感じ、引退を決めた。生半可に掛け持ちをしないのも、町田らしかった。