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「フィギュアスケートは総合芸術」
氷上の哲学者・町田樹、最後の演技。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto

posted2018/10/10 11:00

「フィギュアスケートは総合芸術」氷上の哲学者・町田樹、最後の演技。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

フィギュアスケートを含む「アーティスティックスポーツ」を研究している町田樹。これからは大学教授を目指す。

愚直なまでのまっすぐな性格。

 競技に打ち込んでいるときから、愚直なまでのまっすぐさを感じさせる選手だった。取材時の質問には真摯に、考え抜いて答え、言葉を決しておろそかにすることはなかった。

 そんなまっすぐさを練習にもぶつけたから、2013-14シーズン、本人も「代表には遠い」という位置からソチ五輪出場を実現し、世界選手権銀メダルを手にするところまで自らを引き上げることができた。

 競技から退いたあとは、そのまっすぐさを、アイスショーの世界にぶつけてきた。数々のプログラムは、町田の姿勢の表れでもあった。

 それらの演技は、町田なりに1つの結論に到達することができた、根拠にもなった。

「この4年間で確信したことは……フィギュアスケートという表現様式は舞踊の1ジャンルとして、確実に成立しうるということです。なおかつ、フィギュアスケートでしかできない表現というものがある、ということなんです」

関係者すべての人に感謝を。

 例えば、高速で、なおかつポジションを変えることなく移動できるのは氷上ならではの世界だ。そういうフィギュアスケート独自の表現があることをしっかりと認識したので、引退を決断できたということだ。

 ジャパンオープンの引退セレモニーでは、プログラムの作曲家や演奏家の名前を紹介するとともに、音響、照明、衣装など、かかわるすべての人々への感謝も言葉にした。総合芸術ならば多くの人の手を借りる必要がある。それら多くの謝辞もまた、町田の揺るぎない信念が浮き彫りになっていたように思う。

 ただ、カーニバルオンアイスで『人間の条件』を演じた直後、町田は一瞬、複雑な表情を浮かべたようにも見えた。そこに葛藤はなかったか――。

 それでもこれが、ラストショーだ。

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