炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープ中崎翔太は無事是名馬である。
控え目な守護神の驚異的な安定感。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2018/09/15 09:00
中崎翔太は謙遜するが、26歳にして100セーブを達成した実績は誇っていいものだ。
万全でなくともコンスタントに。
「無事是名馬」とはいえ、中崎は怪我と無縁の選手ではない。
実家が農家だったこともあり、米といもで大きく育った。小学6年生のときにはランドセルが肩幅に収まらず、1人リュックサックで登校していた。それくらい丈夫ではあるが、常にケガと向き合ってきた野球人生である。
'13年に血行障害を患い、同年オフには右手人さし指・中指の手術を行なった。今でもウォーミングアップ時には手袋を着用し、試合前後のマッサージは欠かさない。また昨年には腰痛を発症するなど、決して体が強いわけではない。
中継ぎやクローザーという酷なポジションで、万全な体調で臨める時期はごくわずか。毎年身を削りながら投げているようなものだ。それをカバーするため、様々な工夫と時間に心血を注いでいる。
それを間近で見ているのは、広島の中継ぎ主将の一岡竜司だ。「1年1年、体は違う。その中でザキはあれだけコンスタントに投げて、あれだけ抑えているのはすごい」と同じポジションで務める者だからこそ、分かる凄味がある。
自分は劣っていると思うからこそ。
中崎本人は「他球団の抑えの人を見ても、僕は劣っていると思う」と認める。
だからこそ、日々の準備の重要性を理解し、徹底できているのかもしれない。
お酒もたばこもやらない。休日も球場に来て、有酸素運動や体のケアを丹念に行う。試合日も投手陣の中で最も早く球場に姿を見せ、試合後に球場を後にするのも遅い。シーズンが始まれば、入念な調整を繰り返す。1度の失敗がチームの勝敗に直結するポジションを長く務める投手だからこその自覚だろう。
今年、初めて開幕から一軍に帯同し続ける2年目のアドゥワ誠は間近で見てきた姿に驚きを感じたという。
「誰よりも早く球場に来て、バイクをこいだり、ストレッチしたり、ケアが徹底されている」
そんな背中を見て、アドゥワもウエートトレーニングを始めた。