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そのスライダーで一流打者を育てた。
悔いなき投手人生、杉内俊哉の引退。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2018/09/14 13:30
引退表明の記者会見を終え、花束を手に引き揚げる巨人の杉内俊哉。今後の話はまだ出ていないが、ぜひ“杉内俊哉2世”を育てて欲しい。
杉内の投球が一流打者を育てた。
一流が一流を育てるのである。
杉内はその完璧なスライダーで相手打者を抑え込むだけではなく、そのスライダーで数々の一流打者を育ててきた。
杉内と対戦することで、多くの打者がプロの投手の凄さを知り、その投手を打ち砕くために己を磨いてきたのである。
「19歳で初めて対戦したとき、“こんなピッチャー、どうやって打つんや!”と思いました。左投手でそんなことを思ったのは杉さんだけだった」
こう語ったのは現在はチームメイトの坂本勇人内野手だった。
坂本が畏怖した杉内のスライダー。
坂本が初めて対戦したのは2008年5月31日の交流戦、ソフトバンク対巨人戦だった。
この試合で杉内は5安打完投勝利を挙げているが、プロ2年目の坂本は4打席で2つの三振を喫して、完璧に抑え込まれた。
プレートの一塁側を踏んで、右打者のインコースに鋭い角度で切れ込んでくるスライダー。プロ2年目でレギュラーをつかみかけてきた坂本が、初めて見る軌跡だった。
「このボールを打てなければプロではやっていけない」
そのとき瞼に残したそのスライダーの軌跡が、坂本という打者をここまで育て上げる1つのエネルギーになったことは紛れもない事実なのである。
そしてもう1人、杉内のスライダーの洗礼を受けた打者がいる。DeNAの筒香嘉智外野手だ。
プロ2年目の2011年、3月10日。
筒香の記憶に残るのはまだ肌寒いオープン戦の打席だった。