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史上最強・聖光学院が福島12年連覇。
転機は監督の「負けてみろ!」。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2018/07/26 10:30

史上最強・聖光学院が福島12年連覇。転機は監督の「負けてみろ!」。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

選手たちに22回も胴上げをされた斎藤智也監督。1999年に監督に就任した。

「うちの『いい野球』っていうのは……」

 試合後、まるで敗者のように表情を曇らせていた選手たちに斎藤監督が問うた。

「今のお前たちは、みなさんが期待する試合ができるのか?」

 選手たちがこう答える。

「ちゃんとやろうと思えば思うほどできなくなります。逆に苦しくなってきます」

 次の試合の相手は学法石川だ。選手の能力だけで言えば聖光学院にも匹敵する、県内の強豪チームである。斎藤監督が選手に続ける。

「勝ち負けを度外視して、どれだけ開き直って戦えるか? 今更かっこつけんな。お前らは、無様な生き様しか見せられていねぇんだよ。うちの『いい野球』っていうのは、どんな展開でも闘争本能むき出しで相手に向かっていくガツガツした姿勢だろ。もっと、泥クソまみれになって、最後の最後まで粘り強く、相手に食らいついて戦ってみろ!」

 そして、斎藤監督はミーティングの最後に、こう言って締めた。

「次の試合、潔く負けてみろ!」

「ダサい野球しかできていなくて」

 主将の矢吹は、この監督との対話によってチームの目が覚めたと言う。

「センバツが終わってからの練習試合もほとんどが負けか引き分けで、本当に生き様が悪いというか、ダサい野球しかできていなくて。白河戦は途中から『本当に負けるんじゃないか?』って怖さがめちゃくちゃありました。

 練習でも気持ちの面でも本当に準備ができていればガツガツ行けるんですけど、そこに自信がないまま試合に入ってしまったことは自分たちもわかっていて。でも、まだまだ未熟で。ミーティングで監督さんから言われたことで、『聖光学院が一番大事にしている部分を見失っていた』って気づかされました」

 センバツが終わってから、聖光学院にしばらく居座っていた淀みが消えた。それを確認できたのが、学法石川との試合直前だった。

 選手たちの表情は、白河戦後のそれとは真逆だった。監督から「負けてみろ」と言われて臨もうとしている試合であっても、その表情はすこぶる明るい。周りに安心感を与えるような、オーラが一帯に充満していた。

【次ページ】 選手を消耗させつくした5回コールド。

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