野球クロスロードBACK NUMBER
史上最強・聖光学院が福島12年連覇。
転機は監督の「負けてみろ!」。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2018/07/26 10:30
選手たちに22回も胴上げをされた斎藤智也監督。1999年に監督に就任した。
選手を消耗させつくした5回コールド。
負けを覚悟し、開き直って迎えた試合で、聖光学院は学法石川に11-1の5回コールドと、圧勝した。それでも、試合後の選手たちは疲弊しきっていた。センターの横堀航平は両足をつって立てなくなり、ストレッチャーで運ばれた。ショートの田野孔誠も同様の症状でしばらく横になるほどだった。普段は明るいライトの五味卓馬は「疲れました」と連呼し、主砲の須田優真も「早く寝たいです」と本音を漏らす。
全員がやりきったのだ。闘争本能むき出しに泥クソまみれに戦い、力尽きた。
そして、選手たちの気概が、斎藤監督の不満と不安も打ち消してくれた。
「予想外の展開だったね。開き直るきっかけにしたかったから、負けたとしてもそれはそれで勉強になったと思う。もがき苦しんだものが教訓となった、いい試合だったね」
センバツでの敗戦のショックを過剰に引きずっていたチームが、ようやく立ち直った。無欲に、愚直に。その姿勢を取り戻したチームが県大会を制し、聖光学院の歴史で初の東北大会「秋春連覇」を成し遂げられたのも、あるいは必然だったのかもしれない。
「日本一の挑戦者となって日本一を」
「迷いはない」
大一番の夏を迎えると、選手全員が淀みなくそう言い切っていた。
最も苦しんだ準決勝のいわき海星戦では、9回表にミスもあって1点差に詰め寄られたが、ショートの田野孔誠は「逆転されるところまで想定していました」と言ってのけた。結果的に難を逃れ3-2で勝利したが、仮に田野の予測が的中しても、彼らは泥クソまみれで流れを引き寄せたと断言できるほど、チームは成熟しつつあった。
決勝戦では一転、15-2の大差で福島商を圧倒したが、それも試合後の斎藤監督の言葉を聞けば納得させられる。
「ここ数年は決勝で僅差の試合が続いていたからね。そういう試合をものにできるのも大きいけど、そろそろギリギリで勝つことを乗り越えないと、全国では先に進めない」
その歩みには、まだ先がある。
勝利を宿命づけられた今年のチームは、少しだけ、遠回りをした。その分、刻み続けた一歩の重みも理解している。
矢吹は「日本一の挑戦者となって日本一を目指します」と言った。
チームの断固たる決意。もう、迷いはない。