スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「甲子園は価値観を確認する儀礼」
想田和弘が語るスポーツの聖地性。
posted2018/07/22 08:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Yuki Suenaga
『選挙』、『演劇』、『牡蠣工場』など、音楽やナレーションを排除した観察映画を発表してきた想田和弘監督が、はじめてアメリカを舞台にした映画『ザ・ビッグハウス』を発表した。
ビッグハウスとは、ミシガン大学のフットボール・スタジアムの愛称。そのキャパシティは、なんと10万7601人。大統領選挙が行われていた2016年秋、想田監督はミシガン大の学生たちと一緒にカメラを回し、アメフトの現場を“観察”した。
生島 映画『ザ・ビッグハウス』を見ている間、観察映画なのに、ずっと興奮していました。実は、家にはミシガン大のグッズがあふれているので……。
想田 そうなんですか! 10万人がひとつの場所に集まると、「気」が充満するんですよ。ビジュアルや音はもちろんインパクトがあるんですが、人間が集まること自体に大きなパワーがあることを改めて実感しました。そしてその気が、様々な形で人間に影響を与える。
生島 たとえば?
想田 他のスポーツの例をあげると、僕はニューヨークに住んでいますが、それほどスポーツに入れ込むタイプの人間ではないんです。でも、メジャーリーグのニューヨーク・メッツの試合を観に行くと、いつもは大した味じゃないアメリカのビールが、本当に美味しく感じて(笑)。
生島 ああ、分かります。神宮や甲子園で飲むと、美味しいですから。
想田 開放的な空間に、たくさんの人がいることでエネルギーが充満して、いろいろな効果が表れるんですよね。
ビジネスの要請がスポーツを変えた。
生島 でも、僕がミシガン大の試合を熱心にテレビで見ていた1990年代は、ここまでボルテージは上がっていたとは思わないんです。いまじゃ、ミシガン大のスクールカラー、「メイズ(トウモロコシ色)&ブルー」でスタンドが染まってますよね。たぶん、この現象はここ10年くらいのことだと思うんです。
想田 1970年代にミシガン大を卒業したOBの人たちの話だと、「昔はもっと牧歌的だった」というんです。僕が思うに、ミシガン大学は州立ですが、公的資金がカットされて、大学が独立採算に近い形で大学を経営していかなければならなくなった時に、ビジネスの柱として浮かび上がってきたのが、アメリカンフットボール部であり、「ビッグハウス」というスタジアムだったと思うんです。
生島 スポーツが大きな武器になったんですね。
想田 そうしたビジネス的な要請があったからこそ、ブランディングやプロモーションが進化したと思いますね。