マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
平野佳寿は大学時代から匠だった。
メジャー強打者も封じる低めの技。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAFLO
posted2018/07/11 08:00
今季の大リーガーで注目を浴びているのは大谷翔平だが、平野佳寿も評価を上げている。
メジャー相手に「粘らせている」?
低めを自在に使えるから、今の平野佳寿は“高め”を操れるようになった。高めとは、打者の胸から顔の高さのこと。そこは危ないぞ……という意味の、いわゆる「高め」とは、ベルトの高さのことだ。
しつこく、しつこく、低めに集めてから、思い出したように高めを1つ挟んで打者の視線を動かしておいて、そこから再び低めを突く。打者には余計に遠く見えて、打ち損じてしまう。
メジャーに行ってからの平野佳寿は6球、7球、打者にファールで粘られることがある。しかし、そこから打ちとっている姿を見ると、わかっていて打者に「粘らせている」ように見える。
相手は一流のメジャーリーガーばかりだ。簡単に打ち取れるわけもない。何球も振らせてから料理するのも“手”なのでは……。訊いたわけじゃないが、そんな“計算”が透けて見えることがある。
ファールを打たせている時のボールは「ストレート」だ。たまに150キロに達することもあるが、アベレージは145キロ前後。それでも、存分に腕をしならせて、低めに丁寧に、生きたストレートを投げれば、そうやられることはない。
そんな“確信”を胸に秘めているからこその「魂の投球」なのだろう。ただ、どうってことはない……みたいな表情で投げてくるから、打者の闘争心もそこまで昂ぶることはないのか。
最後は、1つ前の速球と同じ高さから勝負球のフォークを落として切り抜けてしまう。
こういうのを「技術」というのだろう。
厳しいコースを突く時の重要性。
球威で圧倒できるほどではないのか、平野佳寿は時々、アッ! と思うような打球を弾き返されることがある。しかし、それがフェンスまであと1歩届かなかったり、野手の正面を突いて、ホッと胸をなで下ろす。そんな場面が何度かあった。
以前、あるプロ野球投手が、こんなことを言っていた。
「ポテンって、くやしいじゃないですか。勝った! と思った打球が間に落ちて、ヒットになる。“あれ、なんでポテンになるのかな……”って考えて、力で負けたって、ずっと思ってたんですよ。でも、違いますね。コースで負けてるんですよ。ボール1つ中だったり、ボール1つ高かったり……。完全に芯を外してない。逆に“やられた!”と思ってもアウトになる時って、ボールの力よりコースが厳しくいった時なんです。これ、間違いないですよ、何度も確かめましたから」
その“経験則”に気づいた時から、彼はコントロールの本当の大切さを思い知ったという。