錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、全仏初戦後の意外な行動。
西岡良仁の激戦に足を運んだ理由。
posted2018/05/28 18:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Getty Images
右手首のケガによる約5カ月のツアー離脱から復帰して4カ月。約11カ月ぶりに戻って来たグランドスラムの舞台で、錦織圭はストレートセット勝利で好スタートを切った。
7-6(0)、 6-4、6-3。破ったマキシム・ジャンビエが世界ランク304位の選手だったことを考えれば、グランドスラムの復帰戦とはいえ当然の結果。実は試合よりも印象深かったのは、そのあとの行動だった。
記者会見やテレビのインタビューなど試合後の全ての仕事を終えたとき、時計の針は18時半をまわっていた。さっさとホテルに戻ってゆっくり夕食でもとりたい時間帯だ。しかし錦織がそこから向かった先は、ホテルではなく18番コートだった。
今年新設されたショーコートだが、会場の中の一番端にあって、取材に行くのも腰が重くなってしまうような場所だ。そこで、22歳の西岡良仁が第30シードのフェルナンド・ベルダスコと大接戦を繰り広げていた。すでに最終セット。勝てば大金星だった。
錦織は遠く離れたコートに向かった。
西岡は膝のケガで約9カ月間戦列を離れ、1月に復帰。負傷時に自己最高の58位だったランキングは一時400位近くにまで落ち、チャレンジャーの優勝で現在は266位まで戻しているものの、険しい復活の途上にいる。
フロリダのIMGアカデミーでジュニア時代から育った西岡は錦織の親しい後輩だが、グランドスラムで錦織クラスのプレーヤーが外のコートの試合にわざわざ足を運ぶことは滅多にない。いくら20位台に落ちているといってもだ。
しかも自分の試合を終えたあと、センターコートならともかく遠く離れたコートである。
試合の行方ならプレーヤーズラウンジ等にあるモニター画面でも見ることができる。それでも、西岡の大勝負に足を向けずにはいられなかった衝動は、ほとんど同じ時期に錦織自身が味わったケガの苦悩や復活の怖さや不安と無関係ではなかっただろう。