錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、全仏初戦後の意外な行動。
西岡良仁の激戦に足を運んだ理由。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2018/05/28 18:00
世界304位のジャンビエの強打を軽くいなした錦織圭。初戦突破は通過点でしかない。
3セット目で「ようやく楽しまないと」。
先月は一度39位までランキングを落としたものの、6年ぶりに出場したモンテカルロ・マスターズの準優勝で22位まで一気に戻し、ノーシードも覚悟していた今大会でも第19シードを得ることができた。
初戦で破ったジャンビエは、全てのポイントが一か八かの勝負といってもいいほどの強打で攻めまくる21歳だった。ウィナーも早いがミスも早くてラリーはほとんど続かない。
「クレーコートはラリーが長くなるので、ストローク戦でリズムをつかめるようになってきた」という錦織にとって、リズムもつかみづらければ、楽しくもない試合だった。久々のグランドスラムという緊張もあったが、「3セット目くらいになってようやく楽しまないといけないなとコートの中で思い出した」という。
「困難なときもこのシチュエーションをどう組み立てていくかという楽しみがある。楽しむ気持ちは忘れないようにしたい」とも言った。「楽しむ」という言葉を何度も繰り返したのは新鮮だった。ケガをする前、「スランプ」とも言われていた時期にほとんど聞かれなかった言葉だからだ。
「最近笑顔がないような気がする」と、記者会見で指摘されたのもちょうど1年前のこの大会だった。今は、確かに消えていた笑顔が戻ってきたし、「トップ10にいるときのようなプレッシャーが今は抜けている」という表情は清々しい。
重圧に疲れた過去は、テニスを離れていた時間が癒してくれた。そしてまた重圧を感じる場所を目指すのだから不思議だが、そのチャレンジにはかつて多くのファンを魅了した数々の「らしさ」が光って見える。