錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、全仏初戦後の意外な行動。
西岡良仁の激戦に足を運んだ理由。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2018/05/28 18:00
世界304位のジャンビエの強打を軽くいなした錦織圭。初戦突破は通過点でしかない。
最下段の入り口近くで見つめた激闘。
スタンドの中のほうに入れば周囲の観客の目に触れやすいと思ったのか、関係者しか出入りできない最下段の入り口のすぐ近くに腰を下ろしたが、その姿はテレビカメラが何度もとらえる場所だったためにより多くの目に触れることになった。西岡の視界にもすぐに入ったという。
しかし、勝利まで何度も「あと2ポイント」に迫った西岡は、もはや痙攣に襲われて自慢の足が生かせず、満身創痍で敗れ去った。錦織が間近で目にしたのは無情なシーンだったが、何度も顔を両手で覆っていた錦織のコートサイドでの時間が徒労であったはずはない。
この数カ月の間も、錦織の復帰の道のりに精神面で大きな影響を与えたのは、ライバルたちがケガと戦う姿だったのだ。
ケガをして帰ってこられない選手を見た。
「ケガをして帰ってこられない選手、100位以内に戻って来られない選手も今まで何人も見てきた」
2日前、錦織はそんな話をしていた。同じ手首のケガで苦しんだ選手としては、完全復帰までに5年以上を要したファンマルティン・デルポトロの例があるが、まさに今もノバク・ジョコビッチやスタン・ワウリンカのようなビッグネームが予想外に苦しんでいる。
また、この全仏オープンで2009年と2010年に連続して準優勝したロビン・セーデリングは、ケガではないが感染症で世界5位だったときに療養に入ってそのまま二度と戦列に復帰することができなかった。そのほかにも、私たちが咄嗟に思い浮かばない多くの仲間たちの挫折を知っているのだろう。だから、復帰後も時間がかかるのは当たり前だと覚悟を決めることができたし、自分を慰めることも戒めることもできた。
その結果、錦織はうれしい驚きを持ってここまでを振り返ることができる状態にある。
「復帰したときは、1年くらい調子が戻ってこない可能性もあったので怖さがあったけど、またトップ10を倒せるところまできた。感覚もしっかり戻ってきてるし、自信を持ってプレーできている」