テニスPRESSBACK NUMBER
ジョコビッチと全仏の不思議な関係。
「マシン」ではない人間らしさが。
posted2018/05/30 08:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
シャルル・ド・ゴール空港に降り立ってから、まず視界に飛び込んできたテニスプレーヤーはセルビアの英雄ノバク・ジョコビッチだった。フランス国内のトッププレーヤーでもなく、開幕を控えていた全仏オープンの大本命であるラファエル・ナダルでもなく……。
フランスを代表するスポーツブランド『ラコステ』の大きな広告看板。ジョコビッチは昨年から、1933年創業のこの老舗ブランドの顔である。しかし、必ずや伝説のプレーヤーとなる31歳にとって、胸にワニのロゴを誇らし気につけたこの1年は、その堂々たる風格に反して失望の連続だった。
鬼門だった全仏オープンの初優勝から2年。苦い涙を何度も呑み込んだ末に生涯グランドスラムを達成した赤土の最高峰で、右肘のケガと戦った長い月日からジョコビッチがようやく確かな復調の兆しを見せている。
「ひじに痛みを感じないのが何より」
「人生でもっとも苦しいケガと向き合った1年だった。でもこの数週間、少しいいプレーができ始めている。肘に痛みを感じないでプレーできていることが今は何よりもうれしい」
1回戦で予選上がりのロベリオ・ドゥトラシルバを6-3、6-4、6-4で破ったあと、そう語った。ただ、まだ多少こわばった表情には、これまで辿ってきた苦悩の痕が映し出されていた。
58、109、47、7、140、22、そして2。これは、年初の全豪オープンでツアー復帰したジョコビッチが、これまで敗れた相手のランキングだ。右肘のケガで半年間戦列を離れたこと、さらには全豪オープン後で一度復帰してから決断した手術が及ぼした影響は深刻だった。
つい3年前、1シーズンに3つのグランドスラムと6つのマスターズ1000とツアーファイナルも制した無敵の王者だったが、自信に満ちあふれたその姿はもうそこになかった。