イチ流に触れてBACK NUMBER
イチロー、2日間のコーチデビュー。
監督代行の可能性には「勘弁」?
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2018/05/19 11:30
ベンチコーチとしての役割は多岐にわたる。敵味方の出場選手をチェックする仕事も。
イチローは意外と楽しんでいた。
イチローは予てから選手であり続けることは目標として口にしてきたが「監督、コーチになる気は全くない」とも言っていた。
だが、この日。イチローは意外と楽しんでいたような気がする。
ベンチコーチ役と言えども、作戦面には関わらなかった。指揮を執るアクタ監督代行ら首脳陣がベンチの一番ホームプレート寄りに陣取っていたのに対し、イチローベンチコーチは常に右翼側の最前列に座り、選手目線を貫いた。
1試合目は負けた。約30分後に始まる第2試合に向け、イチローコーチの仕事が再び始まった。この日2度目のメンバー表記入である。
「1試合目、負けちゃったからね。2試合目は筆記体にしました。カラーも変えて。それぐらいはしていますよ」
「選手交代を全部書かなきゃいけない」
1試合目のブロック体から筆記体での記入。ペンの色まで変える念の入れよう。茶目っ気たっぷりに語った『験担ぎ』は選手としてはしてこなかったものだ。理由は簡単だった。
「2つ負けたら、絶対に僕のせいにされるから、良かったですよ」
2試合目は、1試合目にしなかったメンバー表交換にまで出向いた。結果は快勝。戦犯を逃れ、表情には安堵感が漂った。
ベンチから野球を見たのは今季現役最終戦となった5月2日のアスレチックス戦以来、8試合ぶりとなった。ベンチ裏のテレビ観戦では味わえない生の感覚を楽しんだ、と思った。だが、そうではなかったらしい。
「(楽しくは)ないっすよ。だって、結構やらなきゃいけないことがあって、1回1回終わったら、選手交代を全部書かなきゃいけない」
ベンチ内に張った両軍メンバー表の出場済み選手に●印を付ける仕事もあった。間違いは許されない。その仕事は責任重大。だから言った。
「意識していても、結構忘れることもあるので、そんな余裕はないです」