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鈴木啓太が語る代表デビュー戦秘話 

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鈴木啓太

鈴木啓太Keita Suzuki

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posted2018/05/25 10:00

鈴木啓太が語る代表デビュー戦秘話<Number Web> photograph by AFLO

オシムさんの意図はすぐ想像できた。

 不思議なもので、日本代表には最初の練習から違和感なく入れたんです。オシムさんの練習はすごく複雑で、頭を使うことばかり。それなのに、自分の頭の中にはモヤモヤとしたものが一切なかった。むしろ、なぜか「できるかもしれない」「自分を活かせるかもしれない」と思えた。

 もしかしたら、オシムさんの言葉に対する理解度は他の選手より早かったかもしれません。「こういうことを言っているんだろうな」とスムーズに理解できたし、練習の意図も違和感なく想像することができた。まあ、オシムさん自身は「アイツ、わかってないな」と思っていたかもしれないですけど(笑)。

 スタメンを言い渡されたのは、試合当日の朝でした。大熊(清)コーチにポンと肩を叩かれて、独特の、こもった小さな声で「おい、お前、スタメン」と言われて。

 前日練習もスタメン組に入っていなかったから、「俺?」という感じでした。でも、すぐに切り替えて、とにかくアピールしなきゃと思った。評価されているなんて思っていなかったから、必死だったんです。だから、「よっしゃ! やってやる!」と。

普段は絶対しないようなターンから……。

 初めて試合で国歌を聴いた時は、もう、本当にヤバかったですよ。A代表の一員として聴く国歌は、世代別代表のそれとはまったくの別モノだった。「俺はいま、日本代表の一員として国歌を歌っているんだ」と思ったら、鳥肌が止まらなくて。あの感覚は、ずっと忘れられません。

 それからずっと、日本代表の試合で国歌を歌う時はいつも鳥肌が立っていました。それだけは、どれだけ経験を積んでも変わらなかった。

 チームの2点目は、僕のプレーが起点になっているんです。普段は絶対にしないようなターンを見事に決めて、左サイドに展開して攻撃を組み立てた。あの試合は、なぜか最初から足が動きました。試合が始まったら緊張は一切なくなって、「うわ、なんか調子いいかも」とすぐに思えた。これならやれる。やってやろう。そんなことを思いながら走り出して、フル出場することができたし、ゴールに絡むこともできた。とにかく、あの舞台でプレーできることが嬉しくて仕方なかった。

 僕の場合、デビュー戦のほうが意外と身体が動くんですよ。失うものが何もないから、余計なことを考えなくていい。まあ、あの試合をちゃんと見直して“あら探し”をしなければ、僕にとっては最高に気持ちのいい思い出です。

【次ページ】 「水を運ぶ」以外もやってみたかったけど。

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