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楽天・今江年晶に流れるPLの血。
「稼頭央さんを安心させたいです!」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKyodo News
posted2018/04/21 08:00
今江年晶はPL学園からドラフト3巡目で2002年ロッテに入団。高校の同級生には朝井秀樹、桜井広大、小斉祐輔らがいた。
「稼頭央さんは本当レジェンドなんで」
これまでも今江は、試合中にサードやファーストから頻繁にマウンドに駆け寄り、ピッチャーに活を入れてきた。「しっかりせぇ!」「なんて顔してんねん。お前が打たれるわけないやろ!」。笑みを浮かべながら背中を押す今江に、救われた選手は多い。
だからこそ、期待してしまうのだ。
そんなことは……と、少しだけ口元を緩ませながら、今江が話す。
「僕と稼頭央さんは立場が違いますからね、あんなに偉大な方にはなれませんよ。稼頭央さんは楽天に7年もいましたし、実績も本当すごいレジェンドなんで、自分はそこまでではないですよ。今の僕は、本当に結果を出すだけなんで。それで、チームに貢献することしか考えられないですよ」
楽天での今江にとって、松井は心の支えでもあった。
ロッテの若手時代から、今江は松井の振る舞いに感激していた。球場などで挨拶に行くと、ほとんどのPL学園の先輩は「頑張れよ」といった激励のみで終わるなか、松井だけは「あのプレーよかったな」と、選手としての今江を応援してくれていた。
楽天に移籍してからも、松井が率先してチーム内でイジってくれたおかげで、今江はすぐに選手たちと打ち解けることができた。
今季の目標を「これが今の気持ちです!」。
偉大な先輩。その松井は今年、楽天にはない。
「寂しい」
そのひと言に尽きると、今江は松井への想いを馳せる。
「稼頭央さんには本当にお世話になったし、楽しませてももらいましたし。だからね……そうだ! その寂しさを吹き飛ばすくらい結果を残して、稼頭央さんを安心させたいですね。これです。これが今の気持ちです!」
危機感や悲壮感はある。だが、それらをプラスに転換できるだけの気概、そして、「松井稼頭央のような存在に」という問いへの答えを、今江は見つけた。あとは、自身が繰り返すように、ただ結果を求めてバットを振りぬくだけである。
楽天生命パーク宮城に今江が快音を響かせる。ベンチは総立ちでベテランを称え、スタンドが大いに沸く。自身に油断はない。ただ、そのたびに心のなかで、こう呟くのだろう。
稼頭央さん、もう大丈夫です――と。