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プロ野球から智辯和歌山のコーチへ。
中谷仁が高校野球界で担う“役割”。
posted2018/04/06 11:15
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
おそらく今選抜大会で、もっとも報道陣から人気のあったコーチだろう。
智辯和歌山を準優勝に導いた中谷仁コーチのことである。同校OBで、高校時代は'97年夏に主将として全国制覇を経験。卒業後は、阪神、楽天などでプレーした元プロ野球選手でもある。
試合の前も後も取材のときは、中谷コーチは常に10人前後の記者に囲まれていた。経験豊かなだけに、話が抜群におもしろい。
「バッテリーは、マイナスとプラスになって、初めて電流が流れるんですよ。ピッチャーが弱気で、キャッチャーも弱気じゃあかん。それじゃあ、マイナスとマイナス。ピッチャーが弱気になってたら、キャッチャーが真ん中投げてこんかい! というぐらいじゃないと。逆に両方とも強気でもあかんのやけど」
コメントが秀逸なだけでなく、記者の質問が途切れても、自ら話し続けて場を盛り上げる気遣いの人でもあった。
高嶋監督も中谷の帰還を待ちわびていた。
中谷コーチが同校に戻って来たのは昨年1月だ。
そこから2季連続で甲子園に出場し、甲子園ではいずれも敗れはしたが大阪桐蔭相手に善戦した。ひと頃絶大だった智辯和歌山の権勢にここ数年は陰りが見え始めていたが、中谷コーチが就任してからの智辯和歌山は往年の迫力を取り戻しつつある。
高嶋仁監督も秘蔵っ子の中谷コーチの帰還を待ちわびていた。
「あいつら、もう俺のいうことなんて聞かんからな。でも中谷が『マー君はこんな風に投げとったで』とか言ったら、よう聞いとるわ。プロを経験しとるから、俺とは説得力が違う」
中谷は自分のことを「年のいったキャプテン」と話す。
「高嶋野球をかみ砕いて選手に伝えるのが僕の仕事。暑苦しいくらいに、うるさくいうてます」