野ボール横丁BACK NUMBER
監督の采配で勝つのは限度がある。
日本航空石川が示す、信頼関係の力。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2018/03/30 14:30
日本航空石川の中村隆監督が自宅に帰るのは週1日。あとの6日は生徒とともに寮に泊り込んでいる。
中村監督「負けたら自分のせいだと」
この日も、原田は、初球をねらっていたという。
「相手のピッチャーは、右打者にはインコースを突いてくると言われていたんで、ベース寄りに立ってインコースをつぶして、真ん中から外のボールを待っていました」
それも原田の判断だった。中村監督が言う。
「あいつに関しては、僕の指示を聞く必要はないといつも言っているんです。指示通りにやると、あいつのよさが消えてしまうんで」
そして、その初球。市川のスライダーが甘く入ってきた。原田の「打った瞬間に入ったと思いました」という打球は高々と舞い上がり、最深部の左中間フェンスを越えた。
駒大苫小牧を率いて2004年から3年連続で夏の甲子園の決勝に勝ち進んだ香田誉士史監督(現・西部ガス監督)は、よくこんな話をする。
「監督の采配で勝ってるチームには限界がある。勝てるチームは、うちもそうだったけど、監督のミスを選手がカバーしてくれるんだよ」
馬淵監督の壁を打ち破ったのは監督の力ではなかった。中村監督が感慨深げに言う。
「負けたら自分のせいだと思っていた。今日は、選手の力で勝ってくれた。作戦とか、戦術ではなく」
こう言える監督を持ったチームは強い。