テニスPRESSBACK NUMBER
大坂なおみが「クール」と認める男。
西岡良仁、大ケガからの逆襲なるか。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2018/03/28 07:00
負傷から戦線復帰した西岡良仁。一気にランキングを上げるチャンスがあるのがテニスの面白さだ。
デルポトロも1042位に落ちながら活用。
このシステムを復活の足がかりとした選手の1人が、一昨年のデルポトロだった。2009年、20歳のときに全米オープンを制したデルポトロは、2010年に右手首を故障。3年もの時間をかけて完全復活したかと思った矢先、2014年に今度は左手首の手術に追い込まれた。
2015年は2大会しか戦えず、2016年の復帰時にはノーランカーに等しい1042位――そんな状況からの再々出発だった。それをたった10カ月ほどで38位まで戻すのだが、この間にプロテクト・ランキングを使って4大会に出場。上限の9大会をフルに使う必要がなかったのは、グランドスラムを含む8つのツアー大会でワイルドカードを与えられたからだ。
そこが西岡クラスの選手が置かれる状況とは決定的に違う。西岡は本人も言っている通り海外でのワイルドカードは期待できず、日本開催の大会数は乏しい。
『66位』が有効な大会は残り4つ。いきなり大物と対戦するリスクはあっても「できれば大きな大会で使いたい」という。あとはチャレンジャーの予選からでもフューチャーズからでも這い上がっていくしかないが、「予選3試合戦ってから本戦となると、体がもたない」とつぶやく。
170cm、64kgという小さな体で、左利きとスピードという持ち味を最大限に生かしながら、我慢に我慢のラリーを重ねて1ポイントをもぎ取る西岡のテニスは、確かに大変なエネルギーを要する。これが自分の戦い方だという信念に支えられているといってもいい。
バグダティスも認めたすばしっこさ。
「不意を突かれたときの一歩目が出てこない」「まだダウンザラインへの展開が思い通りにいかない」「フォアの感覚が完全には戻ってこない」など、次々と出てくる“イメージとのギャップ”に悩まされている今は堪えどころだ。
しかし、決して西岡の良さが失せているわけではない。インディアンウェルズの試合後にコートに現れたインタビュアーは、開口一番、「皆さん、今日は数ある娯楽の中からテニスを見に来て正解でしたね!」と発した。
元トップ10プレーヤーで全豪オープン準優勝者でもある32歳のベテラン相手に、それほどおもしろい試合だったのだ。去って行く西岡の耳にそれが届いたかどうかわからないが、プロのテニスプレーヤーへの最高の賛辞の1つだっただろう。バグダティスもまた、「彼はすばしっこくて、どんなボールも拾ってくるから本当にタフな試合だったよ」と髭面の汗を拭った。