沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
豊と幸四郎、武兄弟の適度な距離感。
兄の背を追う立場から、押す立場へ。
posted2018/03/05 17:30
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
NIKKAN SPORTS
1997年3月2日、前日騎手としてデビューした武幸四郎は阪神競馬場でマイラーズカップを勝ち、初勝利を重賞制覇で飾った。その3分後、兄の武豊が中山で弥生賞を優勝。週末のターフが「武兄弟フィーバー」で熱く盛り上がった――。
あれから21年。
2018年3月3日、土曜日。前年調教師免許を取得し、この春から栗東に厩舎を開業した武幸四郎調教師が、阪神第1レースで調教師としての初陣を迎えた。出走させる管理馬は、池江泰寿厩舎から転厩してきたグアン。鞍上は兄の武豊。
土曜日の1レースとは思えないほど多くのファンで賑わうパドックに武豊が現れ、スーツ姿の武幸四郎調教師にお辞儀をした。ファンがドッと沸くなか、弟が、兄の脚を抱えて馬上へと送り出した。
「調教師の指示どおりに乗りました」
開業初戦で兄弟が組むというだけでも十分ニュースになるのに、それだけでは終わらないのが武ファミリーらしいところだ。
武豊が操るグアンは2番手から抜け出し2馬身半差で快勝。兄弟コンビで臨んだ開業初戦を鮮やかな勝利で飾ったのだ。
スタンドから祝福の拍手が湧き起こった。
レース後、兄は「調教師の指示どおりに乗りました」と周囲を笑わせた。
「調教師になるため、たくさん努力してきたのを見ていたので、今後も頑張ってほしい」
騎手デビュー同様、華やかなスタートを切った弟は「ほっとしています。結果よりも、まずは無事に戻ってきてほしいという気持ちで見ていました。オーナー、池江調教師のご厚意によって武厩舎でデビューできた馬ですので、嬉しいというより、感謝の気持ちで一杯です。まだ先は長いので、調教師としての仕事にひとつひとつ取り組んでいきたいと思います」とコメントした。