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豊と幸四郎、武兄弟の適度な距離感。
兄の背を追う立場から、押す立場へ。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2018/03/05 17:30
武豊を鞍上に、武幸四郎調教師デビュー戦を白星で飾ったグアン。武兄弟の新たな関係の第一歩が始まった記念すべき日だ。
調教にも騎乗せず、まずはスタイルを確立。
同調教師はこの日の阪神8レースもフォレストタウン(クリストフ・ルメール騎乗)で制し、初日で2戦2勝とパーフェクトな成績をおさめた。
翌日、3月4日は中山第4レースの障害競走に、管理するミヤジタイガを出走させていた。「御祝儀馬券」の意味合いもあったのか、前日勝った2頭につづき、この馬も1番人気に支持された(9着)。
開業してから関東初見参とあって、レースの前後に多くの関係者に声をかけられ、忙しそうにしていた。
昨年騎手を引退したばかりで、まだ39歳ということもあって、体型も、握手をしたときの手のやわらかさも騎手時代からまったく変わっていない。今も調教に騎乗しているのだろうか。
「いや、乗っていません。今厩舎にいるのは転厩してきた馬たちなので、その馬たちの個性や状態を把握するのに手一杯なんです。自分の管理馬だから乗りたいんですけど、一頭に乗っちゃうと、ほかの馬の稽古を見られなくなってしまいますから」
月曜日や火曜日に、北海道の馬産地を見て回る時間もなかなかとれないという。
「まずは、調教を確立しなくてはならないと思っています。人によって考え方が違うと思うのですが、いろいろなことをやるのは、それからです」
メインの弥生賞を待たず、慌ただしく中山競馬場をあとにした。
兄・豊とは10学年離れた弟・幸四郎。
派手なスタートを切ったところは「武幸四郎らしさ」に見えるが、本当の彼らしさが出るのは、自身が見つけてきた2歳馬が入厩し、レースに出るようになってからだろう。
1978年11月に生まれた武幸四郎調教師は、'69年3月生まれの兄・豊より10学年下になる。兄が騎手デビューした'87年、彼は小学校3年生だった。父・邦彦元調教師が厩舎を開業したのもその年だ。48歳だった。
幸四郎調教師が競馬学校騎手課程に入学した'94年、デビュー8年目だった兄の豊はスキーパラダイスで仏ムーランドロンシャン賞を勝ち、日本人騎手初の海外GI制覇を達成。凱旋門賞初騎乗も果たした。リーディングの座を当然のように指定席にしていた。