ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
山中慎介は納得できたのだろうか。
「ふざけるな!」と試合後の落涙。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/03/02 12:20
ボクサー山中慎介の姿を見ることはもうない。最後の試合は、違った形であってほしかった。
計量を見た山中が「ふざけるな!」。
ネリの1回目の計量結果が2.3キロ超過と告げられた瞬間、山中は思わず「ふざけるな!」と口走った。あれほど怒りと悲しみに打ち震えるボクサーの表情を、私は見たことがない。
計量失格―─。階級制たるボクシングは、厳しい減量を乗り越え、初めてリングに立つ資格を得る。しかし近年では、世界中のタイトルマッチで体重超過を犯す例があとを絶たない。
あろうことか、我らが山中の最終試合の相手を務める男が、その“不届き者リスト”に名を連ねてしまったのである……。
試合当日、ネリへの怒声とブーイングが渦巻く両国国技館で、山中は初回に1度、2回に3度倒されてTKOで敗れる。試合後の山中は次のように話した。
「試合に関しては効いてしまったので仕方がない。ネリは本当に体も柔らかくて、いい選手です。ただ、ルールがあるんでね、昨日の計量では本当に人として失格やなと、イライラが止まらなかった。そういうことはちゃんとしてほしいですし、ボクシング界全体でも厳しくしてほしいと思いますね」
本人のコメントに過不足はなく、ましてや“バンタム級”という前提条件が崩れてしまっているのだから、もはや試合の論評は意味をなさないのかもしれない。
ネリの行為はどこまでも罪深かった。
試合当日、ネリは昼12時の時点で58.0キロ以内という制約を課せられた上で、試合2時間前の計量は60.1キロ、同時刻に山中が59.2キロだった。
このデータが試合にどのように作用したのかは分からない。事実は、このタイトルマッチがルールに則ったフェアなものではなかったということである。私たちが心の底から楽しみにしていたリマッチは、前日に起きたネリの計量失格でクライマックスを迎えてしまったのだ。
帝拳ジムの浜田剛史代表は、試合後の控室で「言い訳をさせてもらえるなら」と前置きして次のように続けた。
「山中のモチベーションは最高でした。計量がああいうことになり、急にそのモチベーション、緊張感が逆の方向に行ってしまった。積み重ねてきたものが、ほかのところに気持ちがいってしまった。それがなかったら、という思いはあります」
ウエートの有利、不利という問題だけでなく、計量失格という事実は、山中の心をも蝕んだ。ファンの心には不必要なわだかまりと怒りを残した。ネリの行為はどこまでも罪深かった。