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山中慎介は納得できたのだろうか。
「ふざけるな!」と試合後の落涙。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2018/03/02 12:20

山中慎介は納得できたのだろうか。「ふざけるな!」と試合後の落涙。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ボクサー山中慎介の姿を見ることはもうない。最後の試合は、違った形であってほしかった。

帝拳に「入れてください」と頭を下げて。

 いくらネリを呪ってみたところで、失ったものを取り戻すことはできない。控え室で何度も涙を流した山中は「これで終わりです」と現役引退を表明した。

 プロボクシングで世界チャンピオンになる。そう志した滋賀県の中学生は、南京都高(現京都廣学館高)でボクシングをはじめて国体で優勝するなど活躍。しかし進学先の専修大では、主将を務めながら目立った結果は残せなかった。

 名門、帝拳ジムに入門したものの、帝拳に誘われたのではなく、「入れてください」と頭を下げて門を叩いた選手であり、ホープの扱いは受けなかった。帝拳は選手へのサポートが手厚い一方で、結果を残せない選手には容赦なく肩を叩く。それこそが帝拳が長い歴史の中で培ってきた文化だった。

山中のボクシング人生が納得のいくものならば。

 2006年1月のプロデビュー戦以来、山中は自らが“雑草”であることを常に意識しながらボクシングに取り組んできた。当初は思うような試合ができず、8戦して6勝2分。リングサイドで見ていても「煮え切らないなあ」という印象で、本人も強い危機感を抱いていたことだろう。

 しかし9戦目あたりから左ストレートの感覚を開花させてKO勝ちを重ね、2010年に日本チャンピオンとなり、翌年に世界タイトルを獲得した。“雑草”から努力ではい上がったという事実は、山中に大きなプライドと自信を植え付けた。

「デビューしたとき、僕からチケットを買ってくれた人は20人だった。いまは何千人という人が買ってくれるようになって、本当にうれしかったですし、気持ちよかったです」

 山中が納得のいくボクシング人生を送れたのであれば、本当にそう感じているのであれば、我々もいくらか救われた気持ちになるというものだ。

 いつまでも頭の中がプスプスと音を立てている自分に、そう言い聞かせて帰路についた。

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