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山中慎介は納得できたのだろうか。
「ふざけるな!」と試合後の落涙。

posted2018/03/02 12:20

 
山中慎介は納得できたのだろうか。「ふざけるな!」と試合後の落涙。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ボクサー山中慎介の姿を見ることはもうない。最後の試合は、違った形であってほしかった。

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Hiroaki Yamaguchi

 愛すべきチャンピオンによき花道を─―。

 山中慎介に「やり切った」という充実感を胸にリングから降りてほしい。そんな心あるボクシングファンの願いは、メキシコ人の愚行によって台無しにされた。

 1日、両国国技館に8500人の観衆を集めて行われたWBC世界バンタム級タイトルマッチは、元王者で同級1位の山中慎介(帝拳)が計量失格で前日に王座をはく奪されたルイス・ネリ(メキシコ)に2回1分3秒TKO負け。昨年8月、日本記録に並ぶV13を阻止されたネリに雪辱を果たすことはできなかった。

 昨年8月、ネリに敗れた山中は熟慮の末、現役続行、ネリへの雪辱戦の舞台に立つと決意した。はっきりと口にはしなかったが、「勝っても負けてもこの試合が最後」という思いはひしひしと伝わってきた。

秤の上で王座は宙に浮いた。

 山中が「最高の準備ができた」と振り返るこの2カ月間は、決して順風満帆の日々だったわけではない。もはや王者ではなくなったサウスポーは、今までそれほど重視していなかった接近戦の練習にしつこく取り組んだ。離れた距離から伝家の宝刀“神の左”を打ち込むのが山中の必勝パターンである。接近戦の練習は決して楽しいものではなかったはずだ。

 スパーリングでは若いフィリピン人パートナーに打ち込まれ、懸命にディフェンスをしてしのぐシーンがたびたびあった。日本歴代2位となるV12を達成した35歳の元王者は、ただただ、ネリに雪辱するためだけに、もがき、あがき、泥にまみれ、苦しんでいた。

 試合が近づいても、なかなか調子は上がらなかった。それでもなお、いやだからこそ、山中に何とか勝ってほしい、という思いは高まった。

 しかし、事件は起きた。試合前日、メキシコはティファナ出身の23歳、ルイス“パンテラ”ネリは体重を落とせず、秤の上で王座を失ってしまったのだ。

【次ページ】 計量を見た山中が「ふざけるな!」。

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