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スピードスケートだけでメダル6個!
日本を変えたデビットコーチの4年間。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2018/02/26 11:45
マススタートで高木菜那がゴールした瞬間のデビットコーチ(写真中央)。オランダと日本の指導技術の融合から生まれた金メダルだった。
デビットコーチが考えたパシュートの戦略。
4人のメンバー全員が「最大の目標」として掲げていた平昌五輪女子チームパシュート。
ソチ五輪後に取り組んできたことの集大成となるこの試合は、一発勝負の個人種目と違い、2月19日に1回戦を行ない、中1日を挟んで21日に準決勝と決勝を行なうという方式だった。
4人の中の誰を、どのレースで、どのように使うか――。
完璧な戦略が求められる中でデビットコーチが選んだ作戦は、高木美帆と高木菜那を軸に固定し、佐藤と菊池をレースによって入れ替えるというものだった。1回戦では佐藤、準決勝で菊池、そして決勝で再び佐藤を起用した。デビットコーチは菊池を挟むことで佐藤が決勝で最大の能力を発揮するようにした。
こうして迎えた決勝で、デビットコーチは佐藤が先頭を滑る距離を今までの1周から1.5周に増やす大胆な作戦に出た。これにより、準決勝も決勝も滑る高木菜那の負担を軽減することにも成功した。
そしてなんと言っても大黒柱の高木美帆に先頭を任せる距離の設定が絶妙だった。
突出した実力を持つ高木美帆には、計6周の内、半分以上の3.5周で先頭を引っ張る役目を与えた。
「もう1つメダルを獲るチャンスがあるよ」
オランダとの対決となった決勝戦のタイムは2分53秒89。個の力で大きく勝るオランダに1秒以上の差をつけての優勝だった。日本チームは歓喜に沸いた。
表彰式後、デビットコーチはオランダメディアの祝福とインタビューを受けてから日本メディアの待つ位置にやってきた。表情に充足感を漂わせていた。
「ハッピーだ。準決勝も決勝もアメージングだった。実は今週、私はノートに決勝の予想ラップとタイムを書いたんだ。2分53秒90とね。ほとんど正確だった」
デビットコーチは笑顔で自画自賛した。
「過去3年間、とてもハードに練習してきた。私は彼女たちのようなスケーターと一緒にできてラッキーだった。彼女たちは自らもっとハードなトレーニングを望んだ。家族と離れてでも私たちと一緒にやることを求めた。でもまだマススタートが残っている。もう1つメダルを獲るチャンスがあるよ」