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スピードスケートだけでメダル6個!
日本を変えたデビットコーチの4年間。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2018/02/26 11:45
マススタートで高木菜那がゴールした瞬間のデビットコーチ(写真中央)。オランダと日本の指導技術の融合から生まれた金メダルだった。
特に力を入れていたパシュート。
日本電産サンキョー勢は'15-'16年シーズンまでの2年間をオランダで過ごし、'16年春に帰国。高木も同年6月からナショナルチームに加わった。'14年から在籍していた菊池彩花(富士急)、高木美帆(日体大=当時)、押切美沙紀(富士急)らのほか、この年から大学生の佐藤綾乃(高崎健康福祉大学)も加わった。
合宿は年間300日。練習内容は個々のレベルアップはもちろんだが、特に力を入れたのは、'15年2月の世界距離別選手権で女子チームが金メダルを獲得したチームパシュートだった。
デビットコーチは、試合で選手が最高のパフォーマンスを発揮するために、飛行機移動の乗り継ぎを少なくしたり、海外遠征時にトレーニング器具を持ち込むことを日本スケート連盟に求めるなど、環境面の交渉も行なった。最初は“オランダ流”。しかし、日本に馴染むに従って、和蘭折衷の指導になっていった。
'16年6月からナショナルチームに加入した男子のウイリアムソンは2年ぶりにデビットコーチの指導を受けて、「ヨハンも日本に来てから“根性”と言うようになってきた」と変化を指摘していた。
日本が得意としていた科学的分析能力。
オランダ流を取り入れる一方で、日本が従来から得意としてきた分野もあった。
科学分析である。全日本選手権などの主要大会では10年以上前からレース後の血液採取を行っており、乳酸値などのデータを数多く持っていた。また、風洞実験による研究がチームパシュートを力強くアシストした。
3人が1組になって隊列をつくり、先頭を交代しながら滑るこのチームパシュートで、日本は2番手以降の選手の空気抵抗を減らすベストの選手間隔を風洞実験で突き止めた。
カーブを利用して行う先頭交代についても、最適な方法を見つけ出した。以前はコーナーのギリギリのコースを滑っていたが、天井に取り付けたカメラで撮影して分析すると、コーナーギリギリよりも大きく膨らむ方がタイムロスが小さいことが分かった。
日本は今、先頭の選手が大きく外側に膨らむコースを滑っている。スピードをキープするためにはこの方が効率が良かった。
平昌五輪では選手同士の距離、左右幅、先頭交代のいずれにおいても、他国とは違うノウハウを持っていた。だが、いくら理論が優れていても実践しなければ意味がない。選手たちがトレーニングを重ねることが前提だ。