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小平奈緒「私、脈拍数が低いんです」
1000m銀と高橋尚子級の“鉄の心臓”。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTsutomu Kishimoto/JMPA
posted2018/02/15 11:20
猛威を振るうオランダ勢のテルモルスは確かに強かった。だが小平(右)も高木もハイパフォーマンスを出しきった。
「ナオの心臓はブストと変わらない」
一般人の平常時の脈拍数は1分間あたり約60と言われている。小平の数値は女子マラソンのシドニー五輪金メダリスト・高橋尚子さんに匹敵する数値だった。
結城コーチは続けた。
「私は、小平のもともとの持ち味は1000mだと思っているんです。練習を見ていても脈が上がってからの落ち方が早いし、オランダのコーチにも『ナオの心臓はブストと変わらないくらい強いのに、なぜ勝てないんだ』と言われていました」
イレイン・ブストは五輪の金メダル5つを持つオランダのスーパーヒロイン。今回の平昌五輪でも女子1500mで高木美帆を制して優勝している女王だ。そのブストに匹敵する心臓機能。小平には生まれながらにして天賦の才が備わっていた。
しかし、スケートは心肺機能だけでは勝てない。スケート特有の低い姿勢をとりながら、いかに最後まで筋持久力を保つかが重要になる。結城コーチと小平は、共同研究ともいうべきスタイルでトレーニング方法を編み出しながら、500mだけではなく1000mでも勝つための筋持久力を身につけ、たぐいまれな心臓の強さを生かそうとしてきた。
「まだチャレンジできる舞台がある」
その結果の1000m銀メダル。レース後、結城コーチは「小平は内容的には100点。このリンクで小平も五輪新記録でした。ただ、相手が一枚上でした」と評した。
小平も淡々とした口調で、こう言った。
「1000mに関しては(昨年12月に1分12秒09の)世界記録を出しましたけど、完全に私は強いんだろうかと、まだちょっと信じ切れていない。そのへんが結果として出てしまったのかなと思います。でも、1000mで3位以内に入ったことで、500mで金メダルを取るための方程式に乗っていると思う。まだチャレンジできる舞台がある。そこに向かっていきたい」
フラワーセレモニーでは小平とダブル表彰台となった銅メダルの高木美帆も笑顔を見せた。しかし、当然ながら2人とも満足はしていない。
「日本のスケート界にとっては大きな一歩。お互い表彰台にのぼることができてうれしい思いはあります。ですがやはり、もう1段上で並びたかった。そう話しました」
小平が代表して心境を語る。