F1ピットストップBACK NUMBER
セナが愛したマクラーレンの名車。
競売でロン・デニスが買い戻す!?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMarlboro
posted2018/02/12 09:00
1993年、MP4/8でセナは5勝を挙げる。最終戦はセナの最後の勝利となり、マクラーレンの次の勝利は'97まで待たなければならなかった。
ロン・デニスにとってもMP4/8は特別なマシンだった。
オークションに出品されたマシンは、第5戦スペインGPから第13戦イタリアGPまでの9戦で使用された6号車なので、ドニントン・パークでの勝利は含まれていないが、同じ遺伝子を持ったマシンだった。この6号車はシーズン終盤戦で、スペアカーとしてガレージに保管され、最終戦オーストラリアGPでセナにとって最後の勝利も見届けていた。
その勝利の喜びをセナと表彰台で分かち合ったロン・デニスにとっても、このオークションには特別な思いがある。それはこのマシンのシャシー名を見ればわかる。
MP4/8の「MP4」とは、'80年に当時F2の「プロジェクト4(Project4)」を率いていたロン・デニスが、マクラーレンに加入して「マクラーレン・プロジェクト4(McLaren Project4)」となったことに由来する。つまり'93年のMP4/8とは、マクラーレン・プロジェクト4の通算8作目となるF1マシンということだ。
MP4シリーズはその後、2016年まで続き、通算31作目が最後のマシンとなった。この年限りで、デニスがマクラーレンを去ったからだ。'17年よりマクラーレンは新車の名前からMP4のイニシャルネームを外し、「MCL32」に変更。デニス時代と完全に決別した。
シューマッハーのマシン以上の価格という予想も。
マクラーレンを去ったデニスは'17年6月に、保有していたマクラーレンの25%の株式を売却。チームとの関係に終止符を打つ。このときデニスから株式を購入したのはマクラーレンだが、実はその資金調達の担保として、ファクトリーに保管していたMP4シリーズが差し押さえられ、最初にオークションにかけられたのが、今回のMP4/8だったという。
1月、デニスはロンドンのロイヤル・アルバート・ホールを借り切り、マクラーレンのスタッフや友人ら約3000人を招待し、自費で超豪華パーティーを開催して、マクラーレンに別れを告げた。
昨年の11月に出品されたシューマッハーのマシンは、歴代F1マシンの中での最高額となる750万ドル(約8億4000万円)で落札されたが、セナのマシンはそれを上回ると目されている。だが、デニスが株式売却によって得た金額は、2億7500万ポンド(約400億円)だった。マクラーレンが彼のクビを斬るために売り払った名車。それを買い戻すに十分なお金を、デニスは持っている。