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星野仙一のスーツを作り続けた男。
昨年冬に「タキシードの肩が……」。
text by
神津伸子Nobuko Kozu
photograph bySports Graphic Number
posted2018/02/04 08:00
星野仙一の「落ち着いていながら華がある佇まい」は、斎藤清治の作ったスーツが支えていたのだ。
独特の体格に、すこしゆったりしたタイプ。
星野のスーツ作りは難しかった。
野球選手のがっしりした体格に加えて、投手ゆえか肩から腕にかけたラインが独特だった。しかもぴったりサイズではなく、少しゆったりしたタイプが好まれた。なので実は、ジャケットだけを見ると不格好なものも多かったという。
星野の解説はたちまち人気となり、'85年からは同じNHKのサンデースポーツスペシャルのメインキャスターとなった。あっという間にスーツをオシャレに着こなすようになり、優しい語り口の魅力と共に、女性ファンの数も急速に増えた。
やがて星野と斎藤はプライベートでも親しくなり、斎藤の長男の披露宴では、星野が主賓として参列するほどになった。
「選手たち皆、服装がみっともない」
中日監督時代の事だ。
シーズンイン直前にアメリカベロビーチキャンプに出掛けるに当たって、「選手たち皆、服装がみっともない。それぞれに人前に出ても恥ずかしくないスーツを作ってくれ、自分が払うから。ま、球団に払わせても」とオファーを受けた。
渡された約70人の中日の選手名簿を見ると、選手の名前の横に〇×△が記載されていた。
「何でしょうか、この印は?」
そう斎藤が尋ねると、星野は真剣に説明してくれた。
レギュラー陣や文句なしのキャンプイン組は〇で採寸から仮縫い、仕上げまでOK。△はキャンプ参加が微妙な立場の選手で、採寸のみで待機。×はその時点で可能性ゼロという意味だった。
プロの選手の体型は、オフの時は風船のように膨らんだり、引き締まったりする。秋季キャンプで採寸し、オフ真っただ中の12月に試着しても、キャンプインの2月にはまた体が締まっていたりする。作り手にとってはたまらなかった。
素材は、暖かい土地へ行くのだから春夏物。長いフライトでも皴になりにくい、少し化繊も混ざった素材が選ばれた。破格の価格での提供だった。