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家族を愛し、スポーツ万能の天才騎手。
スミヨンの素顔は“悪童”ではない!
posted2019/11/16 09:00
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Tadashi Shirasawa
クリストフ・スミヨンが短期免許を取得して日本で騎乗するのは7年ぶりである。
最初の週こそ、56キロを1頭、57キロを5頭と、負担重量を気遣ったような騎乗馬の構成だったが、これは本人が日本に到着する前に騎乗仲介者が馬を集めていたことによる、いわば安全運転的な措置。実際には「今回は55キロでも楽々と乗れる体を作ってきた」とのことで、翌週からは古馬だけでなく、2歳牡馬の騎乗依頼(牝馬は54キロなので自重)も積極的に受け付け、結果を出し続けている。
10月19日から乗り始めての4週間の成績は、35戦して、10勝、2着5回、3着7回、4着以下13回。勝率.286、連対率.429、複勝率.629という高率。ただでさえ大きいファンの期待に十分に応えていると言えるだろう。
仏リーディング10回の神騎乗連発。
勝ち星の中身も濃厚を極める。スワンS(GII)をダイアトニックで大外から差し切った競馬も技アリのすごい騎乗だったが、エリザベス女王杯(GI)はそれ以上。久しく停滞に甘んじていた一昨年の2歳女王ラッキーライラックと中団のインで絶妙に折り合い、直線もロスなく最内に開けた一本道に導いて、豪快に突き抜ける神騎乗を見せてくれたのだ。
これぞ、フランスでリーディングジョッキーの座に10回も輝いた名手ならではの、絶大な存在感なのだろう。
7年前の来日時、31歳だったスミヨンは、体重の調整に明らかに苦しんでいた。55キロの負担重量をどうにかこなしてはいたものの、レース当日も調整ルームの汗取りサウナにこもり、ようやく間に合わせたことも一度や二度ではなかった。しかし、今年のスミヨンは違う。
「日本に来られなかった一番の問題は重量だった」と認めたうえで、「年も取りましたし、昔より身体のコントロールができるようになりました」と話すスミヨンの表情に余裕が浮かんで見えるのだ。続けて、「ジョッキーとしてのパフォーマンスはいまが一番いいと思う」とまで言うのだから、まさに円熟の境地に来ているのかもしれない。