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「別人」になって4度目のF1王者。
今年のハミルトンは最高の男だった。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2017/11/02 07:00
メキシコGPで4度目の王者に。レースの戦略、戦術、チームとの人間関係、すべてに成熟が見えた1年だった。
精神的支柱ヘインズが両者の歩み寄りに一躍買った。
このとき、ウォルフはハミルトンとともに2人のチーム関係者を呼んだ。ひとりはチームのレースストラテジストのジェームス・バレス。もうひとりは'99年にジェンソン・バトンらを抑えてイギリスF3選手権を制した経験を持ち、昨年からハミルトンのマネージャーとして精神的支柱としての役割を果たしていたマーク・ヘインズだった。
「昨年は、1年を通してさまざまな困難にわれわれは直面し、フラストレーションを抱えたまま最終戦を終えた。チームはタイトルを獲得してシーズンを終えたのに、心のどこかに何かが引っかかっていた。だから、我が家に集まり、キッチンですべてをぶちまけてもらうことにしたんだ」
ヘインズは元ドライバーの立場から、ハミルトンがとった行動はごく自然なものだったと弁護すると同時に、チームがハミルトンに自由にレースを行わせなかったことがこのような状況を生んだと、釘を刺した。
「チャンピオンになるためなら、なんでもやるか?」
チームのレース戦略を担当していたバレスは、このミーティングに、ある決意を持って臨んでいた。
じつは'16年のアブダビGPのレース直前、バレスはハミルトンにある確認を行っていた。
「チャンピオンになるためなら、なんでもやるのか? それとも、チーム内の掟を守って戦うのか?」
メルセデスには、レースにおいて2つの基本的な約束事があった。ひとつは、2人のドライバーの一方を理由なく優先しない。もうひとつは、チームとして最大限のポイントを取ることである。バレスは「チーム内の掟を守って戦ってほしい」とハミルトンに告げたが、ハミルトンは返事をしなかった。そして、レースはスタートした。