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北島康介に憧れて、超えるために。
渡辺一平「燃え尽きてなんて……」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byAFLO
posted2017/08/31 07:30
世界水泳で銅メダルを獲得するなど、国際大会でも結果を残した渡辺。次なる目標は表彰台の頂点だ。
「君の名は。」に涙が止まらない純情さが推進力。
そういえば渡辺はリオから戻った後、ショックを受けたことがあったという。
「友達に僕だけ『老けたね』と言われるんですよ。あんまり嬉しくないですよね……」
クールに自分を客観視する姿は確かに年齢に見合わない成熟を感じさせる。
そうかと思えば、水から上がった渡辺は映画「君の名は。」に涙が止まらない。
「手にお互いの名前を書く場面があって、後で開くと『好きだ』って書いてある。あれ、めっちゃ深くないですか?」
時間や空間を超える世界に没入し、真っすぐな愛のメッセージに涙できる。
勝者には大人と子供が同居する。「老けた」という友人の言葉に落胆している渡辺に言ってあげたい気持ちになった。
何年生きたって味わえない重圧と苦悩が刻むシワは勝負を決める刃になるはず。胸に抱き続ける純情はハードルだらけの道を進む推進力になるはず。だからアスリートが見せる表情はとてつもなく老獪で、どこまでも純粋なのだろう。あの日の北島がそうだったように。
ここから3年。渡辺の表情はどう変わるだろうか。自らの世界記録をどこまで超えていくだろうか。それは彼に宿る可能性と同じように、計り知れないのである。
(Number927号『東京へ。渡辺一平「燃え尽きてなんていられないんです」』より)