猛牛のささやきBACK NUMBER
オリ1年目・山本由伸の成長速度。
「久々にあんなピッチャー見た」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2017/08/23 11:20
ドラフト4位の高卒1年目が一軍昇格をつかみ、初登板で好投。山本由伸の成長速度は周囲の想像をはるかに超えている。
監督もコーチも「久々にこんなピッチャー見た」。
ただ、さすがにファームのようにスイスイとはいかず、7安打され5回でプロ入り後自己最多の82球に達した。試合後は反省が口をついた。
「ファームと違って、追い込んでからも簡単に打たれる。自分の球がまだまだだなと思いましたし、5回でいっぱいいっぱいでした。またしっかり練習しないといけないなと思いました」
落ち着いて足元を見つめる姿に大物感が漂った。
山本を担当した山口和男スカウトは、初登板を見届けたあと、感慨深そうに語った。
「彼は高校時代から、プロのユニフォームを着てどんな活躍ができるかというのが、ハッキリ見える選手でした。でもプロに入ってから、私の予想を遥かに超えて成長している。特に考え方が、19歳の考え方じゃない」
山口スカウトが挙げたのは、やはり5回表1アウト満塁で井口を迎えた場面だった。
「あのカウント3-1の場面で捕手のサインに首を振って、スライダーでストライク。あんなのなかなかできることじゃない。プロで何年もやった選手みたいに、自分の長所も短所もわかって投げている。監督やコーチも『久々にこんなピッチャーを見た』と口を揃えていました」
自分の“力み”まで計算に入れて判断を下す。
山本は、あの場面でサインに首を振った理由をこう説明した。
「ランナーが詰まってるし、カウントも悪くなって自分が力んでいるのもわかっていたので、その状態でもしその球でストライクが入っても、空振りが取れる球ではないし、打ち取れる球でもないなと思った。スライダーの方がゴロになりやすいし、いろいろと都合がいいなと思ったので」
自分の“力み”も計算に入れて、やはり冷静に判断を下していた。
山口スカウトは、「今日は怖いもの知らずで投げられたと思うけど、相手が山本を調べてきた時にどう対応するか、プロの怖さを知った時にどんな投球ができるかが問われる」とプロの厳しさを指摘したが、あふれる期待は抑えられない。
「近い将来、チームを背負うピッチャーになってくれると思います」
スタッフも選手も、山本に関わった人はみな、大きめの期待を抱かずにいられない。
3位埼玉西武とのゲーム差が15.5(20日時点)と開き、今季のCS進出がかすんでいるオリックスだが、底知れぬ可能性を秘めた19歳が、チームの将来に明るい光を灯した。