猛牛のささやきBACK NUMBER
「糸井の補償でオリックスへ来た男」
金田和之が肩書きを返上するまで。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2017/07/31 07:00
人的補償は選手への心理的な負担はあるものの、確実に「欲しい」と思われての移籍でもある。金田はその期待に応えられるか。
勝ちパターンの投手リレーに入り込めるか。
徐々に、僅差で追う展開や勝ちゲームでも起用されるようになり、7月2日の西武戦では6回1イニングを無失点に抑え、プロ5年目で初のホールドをマークした。
しかしまだ不安定さも残る。7月5日のソフトバンク戦では、1点差に追い上げた後の6回裏のマウンドに上がったが、先頭打者に四球を与え、その後、金田の送球エラーで失点し、追い上げムードに水を差してしまった。
これには平井コーチも「打たれることはあったとしても、それ以前に最低限できることをしっかりやらないと」と苦言を呈した。
小林宏投手コーチも、「彼はいかにバッターと勝負できるか。ちょっと大人しいんでね。いい球を持っているんだから、考えすぎずに勝負に行ってほしいですね」と期待を込めて課題を挙げる。
今、1試合1試合が、金田にとって一軍生き残りをかけた登板となっている。
「オリックスに移籍してきて、勝っている場面や、負けていても接戦で、その後どっちに転ぶかという勝敗を分けるところで投げさせてもらっているので、すごくやりがいを感じています。来たからにはやっぱりチームの勝ちにつなげたいし、もっと信頼度を上げていかなきゃいけないと思っています」
阪神とオリックスの違いは、メディアの扱い?
阪神とオリックス。違いはあまりないと金田は言うが、その中でも感じている違いが、チームを取り巻くマスコミだ。人気球団の阪神は、毎日紙面やテレビで多くのスペースや時間を使って報じられ、活躍した選手は大々的に取り上げられる。一方、同じ関西の球団でも、オリックスのメディアへの露出は阪神に比べればわずかだ。
金田も阪神時代はヒーローとして紙面を飾ったことがあったが、まだそこまでの活躍をしていないのに、という思いがあったという。
「勝った時とか、取り上げてもらったら嬉しいんですけど、でも1試合だけでそこまで取り上げられるのは本当はあまり好きじゃなかった。だから自分は今の環境が合っているのかなと思います。活躍すればしただけ扱ってもらえると思うので、取り扱ってもらえるように頑張りたいですね」
いつか、「糸井の人的補償でやってきた」という前置きがつかなくなるほどの活躍を。密かな決意を胸に、オリックスの58番はマウンドに上がる。