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女子マラソン安藤友香&清田真央。
「世界はそんな遠くない」の根拠。
posted2017/08/02 11:00
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph by
Nanae Suzuki
同い年、同じチームの2人のシンデレラガールだ。
彼女たちの、突然の飛躍の裏にあった想いとは。
Number925号(4月13日発売)掲載、女子マラソン期待の2人の記事を全文公開します。
マラソン12戦6勝にして、リオ五輪の銀メダリスト。世界最強ランナーの1人、ユニス・ジェプキルイ・キルワがペースメーカーを露払いに、女王然と行進していく。3連覇に向けて死角はない……はずだった。ぴたりと後ろに張り付く日本人選手の存在を除いては――。
3月に行われた名古屋ウィメンズマラソン。先頭集団は早々に5人まで絞られ、8kmすぎ、キルワが最初の揺さぶりをかける。ペースメーカーに囁きかけ、1kmあたりのペースを突如、10秒ほど上げたのだ。この仕掛けに反応できたのは2人だけ。スズキ浜松ACの安藤友香と清田真央だった。
安藤は言う。
「とにかくキルワについていこう、世界に挑もうと決めていたんですが、序盤にあそこまでペースが速くなるとは思ってなかったです。私にとっては初めてのマラソンだったので、『こんなに飛ばして大丈夫かな』というのは正直ありました」
しかし、その動揺を表情には出さず、安藤は淡々とピッチを刻む。距離を開けられかけた清田も粘り強く2人を追いかける。
「キルワは速そうに見えないんです。呼吸もぜんぜんあがっていないし、まだまだ上げていけるぞというオーラを見せていました。自分としては、もうすこしうまく流れに乗っていけるかなと考えていたんですけど、思ったよりも体が動かなくて、すこし焦ってしまって……。キルワのレベルになると、気持ちの部分でもゆとりがぜんぜん違うなと感じました」(清田)
初マラソンでの活躍と、2度目の挑戦への重圧。
清田はこれがマラソン2戦目。初マラソンだった昨年の名古屋では、田中智美と小原怜に続く日本人3位でゴール。初マラソン歴代5位となる2時間24分32秒という好タイムで脚光を浴びることになった。
ランナーにとって真価を問われる2回目のマラソン。ただでさえプレッシャーがかかるのに加え、今年の名古屋は世界陸上の日本代表最終選考レースを兼ねていた。おまけに期待されていた小原は疲労骨折で欠場。メディアの注目は清田に集中した。練習は順調に積み上げていたものの、精神的な重圧が歯車を狂わせる。コーチの里内正幸も清田の変調に気づいていた。
「現地入り前にやった最後の2000m走は最悪の出来でした。思うように走れず、心の乱れが顔にも出ていた。本人から『怒ってください』と言ってきたほどです。そのあと寮でしっかり話しあって、何とか気持ちを立て直しました。よかったのは、現地に入って記者会見に出たことです。小原はいない。自分はこのプレッシャーの中でがんばるしかないんだ完全に吹っ切れた」