欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
ドルトムントCEOが語った経営と愛。
「日本人はそう思わないんですか?」
text by
山口裕平Yuhei Yamaguchi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/07/22 11:30
クラブのポロシャツで登場したヴァツケCEO。経営者というよりも、サッカーとドルトムントを愛する人という印象が強烈だった。
「日本のスタジアムは美しく、浦和も手強かった」
――では、Jリーグは何を……。
「それはなんといっても若手の育成につきます。良質な環境、つまり練習環境、育成機関、子供や若手が関わるインフラ全体に投資をするのです。よい指導者、芝のグラウンドも必要です。外国人の監督を連れてくるのは、外国人の選手を連れてくるよりは安いですから。
人々はときにポドルスキに興味を抱きます。しかし、その対象は外国人選手だけでなく、日本人選手のスターもいなければなりません。人々が国全体でサッカーに熱狂するのは、代表チームがプレーする時だけなのです。イングランドは世界中からお金を集めていますが、代表チームは何も勝ち得ていません」
――Jリーグの状況は、ドイツのお隣のオーストリアに似ています。ほとんどの代表選手が海外でプレーし、国内リーグはそのステップになっている感があります。この状況を変えるために何をすべきですか?
「難しい質問ですね。良い選手はいつだって高いレベルでプレーすることを望みますし、ドイツにも国外でプレーする選手はたくさんいます。
大事なのは、Jリーグでプレーする日本人が素晴らしい選手であること。1990年にドイツがW杯で優勝した時、多くの選手がイタリアに行きました。しかし、イタリアが財政的に厳しい状況になると帰ってきました。
いつかJリーグが強くなった時……我々は昨日試合をしましたが、インフラが非常に素晴らしいという印象を持ちました。スタジアムは美しく、相手も手強かった。浦和は少なくとも前半は素晴らしい戦いを見せた。Jリーグにはあらゆる面で大きなポテンシャルが眠っていると思います」
――ブンデスリーガに話を移しますと、現在バイエルンがリーグ5連覇中です。この状況はリーグにとって好ましくないのではないですか?
「もちろん緊張感がないのは良くないことです。しかし、彼らを阻むのは難しい。バイエルンは常に優勝していて、これからの10年で最も優勝するでしょう。バイエルンは50年間も一流の成績を残していて、12年前にドルトムントが破産寸前に陥ったような低迷期もありません。しかし、バイエルンとの差はかつてほど大きなものではありません。
ただ、状況はイタリアのユベントスも似ています。フランスのPSGもそうです。昨季モナコが優勝して状況は変わりつつありますが……。我々が2011、2012年とブンデスリーガで優勝した時に似ていますが、モナコの選手はすぐにチームを離れてしまいました。そうなれば、またPSGが優勝するでしょう。イングランドだけが例外でしょうね。それがイングランドの強みです。5~6クラブが豊かな状況にある。
ドイツでその水準にあるのはバイエルンだけで、彼らはドルトムントより1億ユーロ以上多く選手に年俸を払っています。そんなクラブが育成などにも目を向ければ、成功する可能性は高くなります。両方あるから彼らはすごいのです。
スペインもいつかカタルーニャが独立してバルセロナが脱退すれば、レアル・マドリードが毎年優勝することになりますよ(笑)。スペインにとって幸運なのは、2つの本当にトップレベルのクラブがあることです。ドイツでは我々がそのようなクラブになろうと努力していますが、もう少しこの状況は続くでしょう。しかし、永遠ではありません。いつか、バイエルンが王者でなくなる時は来ます。
もちろん優勝争いが白熱すれば最高ですよ。ただ、人々はCL出場権を争ったり、残留を争ったり、ドイツ杯を戦うクラブにも自らを重ねます。それぞれのクラブにストーリーがあるのです」