書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
武藤敬司と蝶野正洋は「生涯現役」。
橋本真也なき今も発揮する表現力。
text by
濱口陽輔Yosuke Hamaguchi
photograph byWataru Sato
posted2017/05/24 07:30
数々の激闘を繰り広げた2人も50代となった。それでもレスラーとしての矜持は今もなお心の奥底に秘めている。
闘魂三銃士は強さ、弱さすべての表現力に長けていた。
誰でも一番になりたい願望はあるものだ。特にプロレスラーを仕事にしている人ならなおさらだと思っていた。
だが蝶野は、必ずしもそうでなくてもいいと考えている。それ以上に、今歩んでいる道が自分に合っているかどうかが、何倍も大事だと言う。
蝶野は'94年に武闘派宣言後、終始反体制側にいた。いわば野党側だ。
驚いたことに蝶野は、その当時から「いつか政権を奪取してやる!」とは思っていなかったようだ。野党とは「こういう方針であるべき」という与党の主張に反論をぶつけていく立場だ。当時の新日本における与党的存在は武藤や橋本であり、蝶野はリング上で意見を戦わせていたのだ。周囲の意見を聞いて物事を進めていくのは素晴らしいこと。だが自分なりの信条、信念を見せていく方向性も大事だと蝶野は考えている。
武藤と蝶野の話を読むと、改めてプロレスは勝ち負けを超越した、表現力を問われるジャンルだと思い知らされる。自身が持っている強さも弱さも含めて、すべてを表現する力に長けていたのが闘魂三銃士ではないだろうか。
前記の通り、闘魂三銃士は橋本の新日本プロレス解雇からゼロワン旗揚げ、そして武藤敬司の全日本プロレス移籍によって別々の道を歩むことになった。三銃士興行、もしくは橋本が新日本復帰するのでは? と噂された時期もあったが、橋本の急逝でそれは叶わぬものとなった。何より橋本が何を考え、リングに上がっていたのか知るすべがないのは残念でならない。
それでも武藤と蝶野の2人は、生涯現役を貫いている。闘魂三銃士結成から30年を迎えた今だからこそ、これからのアクションに期待したい。