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ドラ1との捕手争い制した育成6位。
SB甲斐拓也はなぜ大出世したのか。
posted2017/05/04 07:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
史上初のバッテリー。それが実現したのは今季開幕からすぐの4月4日のことだった。
ホークスの先発投手はWBCベストナインの千賀滉大。そして、スタメンマスクを被ったのは甲斐拓也だった。
千賀が育成出身ながら大出世を果たしたのはすっかり有名になったが、甲斐もまた同じ年の育成ドラフト会議で指名された選手だ。育成制度が導入されて今季が13年目。育成出身選手同士が先発バッテリーを組んだのは、これが初めてだった。
以下、千賀の弁だ。
「正直、特別な感情などはなかったですよ。初めてだったと聞いたときも『あー、そうなんだ』という感じ。育成時代も変に励まし合ったりとか、そんなのはなかったかな。ただ、拓也の肩はあの当時からとにかく凄かった。それは間違いなく言えます」
今から7年前のドラフト会議。千賀は育成4位だったが、甲斐はさらに下の育成6位で指名された。ホークスでは最下位。12球団全体でも97名中94番目でようやく名前が呼ばれた選手だった。
甲斐の入団した年のドラ1は、同じ捕手の山下斐紹。
甲斐は、まるで漫画かドラマの主人公のような男だ。
落ちこぼれ寸前だった非エリートが紆余曲折ありながらもひたむきに努力を重ねて、いつしかライバル関係のエリートを追い抜いてみせる――そんなシナリオに誰しも一度は出合ったことがあるだろう。
あの年のドラフト1位は、同じ高校生捕手の山下斐紹だった。
レギュラーを獲るのが最も難しいとされる捕手というポジションを、有望なドラ1と育成最下位がこれから争っていく。プロ野球の厳しい現実を見せつけられたような気がした。
「プロに入団してしまえばドラフト順位など関係ない」との声も聞くが、実際はそんなことはない。入団1年目の頃、山下は二軍のリーグ戦で着実に経験を積み、10月には出場こそならなかったが一軍昇格を果たした。一方の甲斐は公式戦のない三軍が主戦場。チームの人数の都合などから三塁手を務めた試合もあった。