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世界1位のDJを焦らせた谷原秀人の技。
マスターズに再び出るための10年間。
posted2017/03/31 08:00
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
あのとき、世界ナンバー1のダスティン・ジョンソンに、確かに焦りが見えた。
世界選手権シリーズ、デル・マッチプレー選手権最終日に行われた準決勝マッチ。世界ランキング1位のジョンソンは、60位の谷原秀人を相手に、7番を終えてすでに3アップと圧倒的な強さを示していた。
だが、8番で谷原が1つ奪い返すと、10番では絶好調だったジョンソンのパットが乱れ、またしても谷原がそのホールを奪った。顔色が変わったジョンソンはすぐさま12番を取り返し、再び2アップへ。しかし13番、14番と続けざまに勝利したのは谷原。ついに2人はオールスクエアになった。
あの瞬間、ジョンソンに確かに焦りが見えた。初日から勝ち抜いてきた5マッチのすべてを「これで十分だろ?」と言わんばかりに16番までで決着させてきたジョンソンが、ランク下の谷原を前に初めて焦りを見せた。
15番、16番を分け、ジョンソン未踏の17番へ突入。しかし、さすがは王者だった。初めてプレーするそのパー3でジョンソンはピン2メートルをぴたりと捉え、ねじ込んだ。グリーンの右奥へオーバーさせた谷原は第2打を1メートルに寄せたものの、ジョンソン1アップとなった。
運命の18番、DJは谷原に追い詰められていた。
そして18番。このホールを奪う以外に谷原の勝利はない。谷原はピン3メートル半へ付けたが、ジョンソンはグリーン右手前のバンカーにつかまった。足場の悪いバンカーでどうにかスタンスを取ろうとしていたジョンソンは必死の形相だった。が、世界一の技術はやっぱり素晴らしい。不安定な足場の砂中から打ち出したボールをピン2メートルへ寄せてきた。
谷原のバーディーパットはカップをかすめ、グリーン上に残った。ジョンソンがパーパットを入れれば、ジョンソンの勝利。外せば、延長マッチ。誰もが固唾を飲んで見守っていたパーパットをジョンソンは何度もラインを見直し、そして慎重に沈めた。
右手拳を何度も何度も静かに握り締めながら勝利を実感したジョンソン。その様子からは「やっと勝った。危なかった」という声なき声が聞こえてきた。
数分後、ジョンソンの現実の声はこう言っていた。
「タニハラは素晴らしいプレーをした。18番まで行きたくはなかったけどね」
世界一のDJを揺さぶり、最終ホールまでプレーさせ、感嘆の言葉を導き出した「タニハラ」。それは谷原が世界の舞台で十分に戦える選手に成長していることを実証し、どちらの記憶にも残るマッチとなった。