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「もう猫じゃないわ。虎よ」で世界一。
小平奈緒の滑りはメンタルから進化。
posted2017/03/06 07:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
AFLO
スピードスケートの今季ワールドカップ女子500mで、出場した6戦に全勝、世界距離別選手権金メダル、冬季アジア大会金メダル、世界スプリント選手権優勝。女子短距離のエース、小平奈緒(相澤病院)が無敵の強さで勝利を重ね、平昌五輪へ邁進している。
躍進の背景には、2014年ソチ五輪の後、2シーズンにわたって拠点を置いたオランダでのトレーニングがある。それは、'06年のワールドカップ初参戦から長年培ってきた技術やフィジカルに、最後のピースを付け加えるべく選んだ方法だった。
小平がオランダに求めたものは何か。オランダでつかんだものは何か。
'10年バンクーバー五輪に続き2度目の五輪となったソチ五輪で、500m5位、1000m13位という成績に終わった小平が、スケート王国として知られるオランダに向かったのは14年5月だった。オランダはソチ五輪スピードスケートで金メダル8、メダル総数23個を獲得していた。
国内にスピードスケートのプロが約10チームあるという中で、小平が加入したのは北部のヘーレンフェーンという街にある『チーム・コンティニュ』である。チームを選ぶ際に決め手となったのが、マリアンヌ・ティメルコーチの存在だった。
トリノ五輪での「獣のような眼差し」に驚嘆した。
小平の脳裏には、焼き付いて離れない光景があった。'06年2月19日に行なわれたトリノ五輪女子1000m。スタートラインに向かうティメルの、メラメラと炎を燃やすような視線に釘付けになった。
ティメルはその5日前に行なわれた女子500mのレースで、微妙な判定のフライングにより、失格となっていた。
「怒りを1000mにぶつけた」というティメルは、怒濤のレースを見せて金メダルに輝いた。'98年長野五輪の1000、1500mに続き、8年ぶり、3個目の金メダルだった。
小平は驚嘆した。
「500mで失格して1000mに向かうときの眼差しの鋭さ。人間じゃない、獣のような眼差しの鋭さでした」