野球のぼせもんBACK NUMBER
「WBCは僕の人生を変えてくれた」
内川聖一、悪夢から4年後の決意。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byAFLO
posted2017/02/10 11:30
前回は井端らとともに八面六臂の活躍を見せた内川だが、たったワンプレーで天国から地獄に落ちた悔しさは今も忘れていない。
“ダブルスチール”のスタートを切ったが……。
続く3番・内川もライト前ヒット。逆転を信じるムードは高まる一方だった。
打席は4番打者の阿部慎之助だ。走者は2人。一発が出れば逆転となる。しかし、その2球目にあの「事件」は起きた。
一塁走者の内川は猛然とスタートを切った。だが、二塁走者の井端は止まったままだ。その異変に気づいた時にはもう遅かった。ただ茫然と立ち尽くすのみ。相手のタッチから逃げる余力も、気力も残っていなかった。
ダブルスチールは未遂に終わってチャンスが潰えると、侍ジャパンはそのまま敗退。試合後は泣きじゃくる内川の姿がテレビ画面を通じて日本中に流された。
「もう一度あのユニフォームを着て、戦いたい」
あのシーンについて、大会後も繰り返し真相追及が行われた。筆者も、その類の質問をしたこともある。
「それ、今、僕が話さないといけないですか」
表情は笑顔ながらも、怒気を含んだ声でそう返された。
ただあの時、静かな口調で誓っていた。
「もう一度チャンスがあるならば……。次のWBCでも内川が必要だと思ってもらえるような選手でいられることが、応援してくれる人たちへの恩返しになる。もう一度あのユニフォームを着て、世界を相手に戦いたい。取り返す機会を作るために成長しないといけないと思うんです」
あれから4年が経った今も変わらず、内川は日本の野球界にとって欠かせない存在だ。
セ・パ両リーグで首位打者獲得経験のあるヒットマンは、ホークスで主将と4番打者の二つの重責を担う。'14年日本シリーズではMVPを獲得。'15年もチームを2年連続の日本一に導く立役者となった。昨シーズンは自身8度目のシーズン打率3割を達成。そして通算2000安打の金字塔に残り104本として今シーズンに臨む。