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岡田武史が怒鳴り、悩み抜いた1年間。
JFL昇格したFC今治で起きていた事。 

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byToshio Ninomiya

posted2016/12/03 11:00

岡田武史が怒鳴り、悩み抜いた1年間。JFL昇格したFC今治で起きていた事。<Number Web> photograph by Toshio Ninomiya

FC今治の目標は2025年にJ1で常時優勝争いするチームになり、日本代表を出す事。JFLに昇格した今、残す階段はあと3つだ。

「この1カ月間で、人生を変えてしまわないか」

 経営者の道を歩み始めるなか、親交のあるライフネット生命の出口治明代表取締役会長の言葉が岡田の心に強く残ったという。

「『スタートアップした会社の約9割が3年以内につぶれています。でもそのリスクにチャレンジした人が社会を変えてきた。リスクがあるからってチャレンジしなくなったら、社会は変わらないんです』という言い方をされた。俺もそのとおりだと思った。まあ、最初からリスクだなと思ってチャレンジしたんじゃなくて、やってみたら大変なリスクがあるなというのがいつものパターンなんだけど(笑)。でもこうなったら後ろに戻れないし、腹くくってやるしかないから」

 しかしながら、現実はそう甘くはなかった。チャレンジを呼び掛けても、チームにも社員にも何か物足りなさが残った。

 昨秋、四国リーグを制した翌日に、岡田は選手たちを集めてこう呼びかけている。

「全国地域決勝大会までのこの1カ月間で、人生を変えてしまわないか。人生を変えるってそんな簡単なことじゃない。でもJFLに上がったら君たちの人生は変わるかもしれない。すべての行動を、決勝大会に勝つために捧げてほしい。朝起きたら『JFLに絶対に上がる』と口に出して言おう。言ったところから1分1秒、無駄にするんじゃない」

選手の甘い考えに、岡田は激昂した。

 だが仕事の合間を縫って数日後の練習試合に途中から顔を出すと、自陣ゴール前でつなごうとして横パスをかっさらわれたプレーに出くわした。ピンチを招きながら「ゴメン!」「ドンマイ!」と声を掛け合っていた。

 納得がいかなかった。ハーフタイムに入ると監督に「申し訳ないが、選手に対して一言だけしゃべらせてもらえないか」と了解を取って、選手の前に立った。越権行為であることは分かっている。ただ、どうしても言わずにはおけなかった。

「冗談じゃない。もし俺が一緒にプレーしていたらあの横パスしたヤツの胸ぐらをつかんで『俺の人生をどうしてくれるんだ』と言っている。何が『ゴメン』だ! 『ドンマイ』だ! お前たちそんな甘い考えだったのか!」

 本気で人生を変えようとしているとは思えなかった。

 1カ月後の全国地域決勝大会では1次リーグ敗退に終わり、決勝ラウンドにも進めなかった。

 また昨年12月に行なったファン感謝祭では、社員、スタッフの配慮がまだまだ足りないと感じさせられた。岡田はこう語っている。

「会場に400人も来てくれた。俺は最初からこの400人を絶対に逃がしたくないっていう気持ちで感謝祭に入っている。でも抽選会になったら、(スタッフが)観客席から遠いところでやろうとする。何でだと聞いたら『いやマイクが届きません』と。僕は、ダメだと。地声でいいからお客さんのいるところでやってくれ、と」

【次ページ】 もどかしさを自分にぶつけ、権限も分配した。

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