イチ流に触れてBACK NUMBER
「相手の心が見えることが多かった」
イチローが今季感じた、密かな幸福。
posted2016/10/28 07:00
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
AFLO
シーズン最終戦。代打で出場したイチローは今季を象徴する「1本締め」でメジャー16年目のシーズンを締めくくった。
ナショナルズの右腕マックス・シャーザーから放った痛烈な一打は、サイ・ヤング賞投手が投じた95マイル(約153キロ)の直球を右前に弾き返した。
150キロ超の速球に力負けしない打撃こそ、自身が今季目指してきた一大テーマだった。
結果、昨季より打席数は73減でありながら安打は4本増、打率.291は10年連続200安打が途切れた'11年以降では最高の数字となった。一定の満足感を示しつつ、イチローは今季を振り返りこんな言葉を残した。
「(戦いの中で)相手が(僕を)嫌がっているのが、見える瞬間が多かったというのは言えるかもしれないですね。野球、特にバッターとピッチャーの関係というのは面白いもので、自分が少し弱っているときは、向こうに見透かされてしまう。逆にこっちが自信に満ち溢れていることも伝わっていく。相手の心の内というか、そういうものが見えることがたくさんあったので、それは気持ち良かったですね」
宿敵ラッキーが見せてきた、なりふり構わぬ姿勢。
昨季は自身が「目を疑う」自己最低の打率.229に終わっていた。
相手投手は容赦なく力勝負を挑み、マウンドから投げ込む姿によどみはなかった。
だが、42歳の今季はパワー系投手に対し打率.318を残し、キャリア通算の.298を大きく上回った。直球に力負けしない打撃が蘇れば、オフスピードの変化球への対応はお手の物。
年齢の概念を覆すイチローの打撃に相手投手が手を焼く姿を目にすることは痛快と言えた。