マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
田中正義を送り出す創価大・岸監督。
「割と軽く考えてピッチャーにした」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2016/10/26 07:00
抽選でソフトバンクが交渉権を獲得した田中正義。投手としてはまだキャリア4年、どこまで伸びるのだろうか。右端が岸監督。
返球がスタンドに飛び込んだ肩が忘れられない。
「その時言ったんですよ、正義に。もうバットは持たなくていいから、ランニングと体幹鍛えて、キャッチボールでもう一度肩を作っておいてくれって」
高校の時の田中正義はずっと右肩を痛めていて、実戦ではほとんど投げていない。
その代わり、抜群の身体能力の強肩でセンターを守って4番を打ち、最後の夏の予選で神宮球場の左中間上段に放り込んだ大アーチを、私はたまたま目撃している。
しかし強烈な印象として残っているのは、シートノックで三塁に返球したボールがぐんぐん伸びて、伸びっぱなしのまま三塁側のスタンドに飛び込んだその記憶のほうだ。
とんでもない猛肩。さらに、均整抜群の体躯に豪快な腕の振り。なんでピッチャーやらないのだろう……不思議に思ったものだ。
「とにかく野球のことしか考えてないから、正義は。休みの日も練習してるし、寮でのんびりしてるのなんて見たことない。ジム通いも欠かさないしね。もう立派なプロ意識ですよ、僕はそう思うね」
寮ではもちろん食事が出されるが、それ以外に、お母さん手作りの惣菜が冷凍パックで送られてきて、田中正義の体作りの強力なバックアップをしてきた。
「正義はスナック菓子なんて、絶対食べない」
「ときどき選手たちをウチに呼ぶのよ、いろんな話をしたいんでね」
ウチ。
岸監督のご自宅は、実は選手たちが生活をする「光球寮」の中にある。
初めて寮にうかがった時、玄関を上がったすぐ右のトビラに「岸雅司・城子」の表札がかかっていて、とてもびっくりしたものだ。
「来てくれれば、お茶も出して、お茶菓子も出してね。でも正義は食べない。スナック菓子なんて、絶対食べない。体にいいものはドンドン入れるけど、そうじゃないものは入れない。徹底してるのね。小川(泰弘・現ヤクルト)も食生活にはストイックだったけど、正義ほど徹底的にこだわる子は今までいなかったね。お腹がすいた状態でトレーニングやっても筋肉はつかない……って情報があると、練習中に、おにぎりとかゆで卵とか入れて。それで、トレーニングでどんどん体が大きくなっていってね」