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113戦で表彰台未経験だけど実力派。
ヒュルケンベルグが惜しまれつつ移籍。
posted2016/10/23 08:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
AFLO
ひとりの実力派ドライバーが、思い切った決断を下した。ドイツ人のニコ・ヒュルケンベルグが5年間在籍したフォース・インディアを離れ、ルノーへ移籍することを発表したのだ。
現在フォース・インディアは、チーム創設以来初となるコンストラクターズ選手権4位の座をウイリアムズと激しく争う躍進を披露。一方、ルノーは今シーズン入賞わずか3回で、9位に低迷している。端から見れば、ヒュルケンベルグの移籍はステップダウンのようにも思える。
しかし彼のキャリアを通して考えれば、この移籍が必ずしも後ろ向きの決断だとは言えない。それは、ルノーはいまのF1界でパワーユニットを供給する4つのメーカーのうちのひとつであり、そのワークスチームでもあるからだ。
現在のF1マシンは車体とパワーユニットが高いレベルで融合しており、最高のパフォーマンスを発揮するためには、パワーユニットメーカーから密接な関係で供給を受けるワークスチームに大きなアドバンテージがある。レッドブル(ルノー製のタグ・ホイヤーを使用)を除けば、今シーズンのトップ3のうちメルセデスAMGとフェラーリがそれにあたる。
シューマッハーとともに王座を手にしたチーム。
ルノーは昨年末にロータスを買収して再結成されたばかりのチーム。しかし、その母体は2005年と'06年にフェルナンド・アロンソを擁してチャンピオンに輝いた歴史があるだけでなく、その前身であるベネトンでも''95年にミハエル・シューマッハーによって王座を手にした伝統あるチームである。移籍発表時、ヒュルケンベルグはこうコメントしている。
「ミハエルは、ルノーとともに栄光に輝き、ドイツでのF1人気を過熱させた。僕がこうしていまF1でレースしているのも彼のおかげ。再びルノーとともに新たな歴史を築くことができたらうれしい」
ドイツ人のヒュルケンベルグにとって、シューマッハーの存在は私たちが想像する以上に重い。これはヒュルケンベルグがかつてシューマッハーのマネージャーであるウィリー・ウェバーと仕事をしていたことでもわかる。2009年にF1への登竜門であるGP2シリーズを圧勝で制したヒュルケンベルグに、多くのドイツ人が「第2のシューマッハー」を期待していたものである。