ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
「大好きなゴルフが嫌いになりそう」
岩田寛を救った“仲間”松山英樹。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2016/08/28 07:00
プロという立場でも、楽しんでプレーする。松山と岩田の表情からはゴルファーとしての原点を感じさせる。
岩田の視線の先がいつも足元にあった理由とは。
1年を通じて、スコアの良し悪しに関わらず、岩田の視線の先はいつも足元にあった。彼の視線をボールとクラブフェースに釘付けにさせていたのは、慢性的なショットの不振に他ならなかった。
「ティショットは飛ばなくなったし、飛ばないのに曲がるし……。とくに150ヤード以内から、ショートアイアンでもグリーンに乗らない。こっちに来たら僕は飛ぶ方じゃないから、150ヤード以内の距離で勝負しないといけないのに、これだから……」
ツアーが集計するデータでは、岩田が残り50~125ヤードの距離から放ったショットがピンにつく平均距離の順位は全体150位、125~150ヤードにおいては170位。確かに数字がその言葉を証明している。
第2打、第3打で迎えた絶好のチャンスメークの機会が、瞬く間にピンチに変わる。岩田は元来、アプローチ、バンカーショット、パットといったグリーン周辺からのプレーに強みを持つが、そういったショートゲームにかかる負担が増大するようになった。
大好きなゴルフが嫌いになりそうでイヤだ!
新天地での戦いは「こんなにゴルフがひどいと思わなかったから、つらい」ものだという。
「“アメリカだからどう”ってのはないんですよ。生活も楽しい。でも、調子の悪さとコースの難易度、周りのレベルが重なって、ひどいショットが生まれている」
今週こそ、今日こそ、この1打こそ……と、期待を抱いては気持ちを砕かれる。試行錯誤の量を上回る失望が重なるうちに、競技者としての純粋さまでもが抉られるまでになった。
「僕はゴルフが大好きなんで……。いまは嫌いになりそうでイヤだ」
ふがいないプレーを終え、言葉を発しないままゴルフ場から引き上げる。思いつめて滞在ホテルの部屋に引きこもる。そういった行動も1度や2度ではなかった。
だが、岩田のそんな孤独感がわずかでも和らぐような場面が皆無だったかと言えばそうではない。荒んだ心は、数少ない仲間との時間が癒してはくれなかったか。