Jをめぐる冒険BACK NUMBER
興梠、塩谷、藤春それぞれの五輪。
責任ではなく恩返しを見せて欲しい。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJMPA
posted2016/08/19 11:30
リオ五輪で、代表そのものへの意欲が興梠慎三の中で変化したのだとすれば、今後の展開に期待が高まる。
コロンビア戦後、目を真っ赤にしていた藤春。
続いて取材ルームに入って来たのは、この日出番のなかった藤春だった。
初戦、2戦目と左サイドバックとして先発し、ピンポイントクロスでチャンスを演出。攻撃面では期待どおりの働きを果たしたと言っていい。だが、今大会の藤春を振り返るうえで避けられないのが、コロンビアとの2戦目で犯したオウンゴールだ。
0-1で迎えた66分、相手のシュートをGK中村航輔が防いだボールが、藤春の右足に当たってゴールラインを割ってしまう。トラップすべきか、クリアすべきか、一瞬の迷いの先に落とし穴が待っていた。藤春にとって、人生初めてのオウンゴールだった。
「本当に覚えてないぐらいの感じで。クリアしようと思ったときには足に当たって……」
コロンビア戦のあと、目を真っ赤にして言葉を絞り出した藤春はその後、同点に追いついてくれた仲間たちへの感謝を口にするので精一杯だった。
「本当にみんな、最後まで戦ってくれていましたし、まだ望みもあるので、しっかり切り替えて……」
オウンゴールを犯したのが藤春だったからこそ。
あまりのショックに沈黙を貫いてもおかしくはない場面で、きちんと取材に応じたのはプロとして素晴らしかったが、真骨頂は翌日だった。前日とは打って変わって明るい表情で、取材陣の前に立った。
「悔しい想いは昨日だけで終わらせて、切り替えるしかない。ひとりだけ暗いとチームの空気も悪くなると思いますし、周りもだいぶ気を遣ってくれているので」
ミーティングの際に手倉森監督が藤春のことをからかい、その場は笑いに包まれたという。大会直前に迎えた興梠の誕生日に一発芸を披露し、19歳の井手口陽介にもイジられる愛すべきキャラクター。オウンゴールが痛恨だったのは確かだが、それを犯したのが藤春で、周りがイジったり、ツッコんだりできたからこそ、チーム内に重苦しい雰囲気は生まれず、スウェーデン戦に向けて切り替えることができた。
コロンビア戦の80分にピッチから退いた藤春にその後、出場機会がめぐってくることはなかった。スウェーデン戦はベンチから、アップをしていたゴール裏から、仲間たちの勝利とナイジェリアの勝利を願ったが、その半分は叶い、半分は叶わなかった。
「コロンビアが勝って、決勝トーナメントに行けなくて残念ですけど、みんなが最後まで戦ってくれて、勝って終われたのはまだ良かったと思います。オーバーエイジとして申し訳ないし、本当に悔しかった。2、3週間という期間で難しい部分もありましたけど、このチームでやれたことは誇りに思います」